林檎飴に集るキミ
 ミンミンと鳴く蝉の一生。ぎらぎら太陽が煩わしく感じる時期がやってきた。
 灼熱の日差しに覆われる日中とは違い、夜は幾分か涼しさを感じる。とはいっても夏真っ盛りだ、暑いのには変わりない。
 暑い暑いとくだを巻きながらワインを飲んでいた尚人が突然行動を始めて早一時間。あまりの早さに迅は天晴れと言いたくなるのであった。
「フフ、良いね……この雰囲気」
 迅愛用の黒のクラウン、その助手席から降り立った尚人は空気を吸い込むと嬉しそうに手を揺らした。
 運転席から出た迅は少し疲れた顔を見せながらも、尚人の顔を見てほうとする。
 本日、急に取れた休暇。尚人は迅が住む清滝組本家へときていた。まったりしながらワインを飲んでいたが、とあることを思い出して行動に出たのだ。
 生憎尚人も迅も一日中暇だ。時間もお金もある。迅は尚人の我儘を仕方なく聞き入れると、用意をしたのだった。
 迅と尚人がきた場所、それは縁日である。夏の風物詩ともいえる縁日が本日行われることを思い出した尚人は、行きたいと迅に言ったのだ。
 最近忙しくまともにデートもしていなかったので、迅はそれに二つ返事で了承すると用意を済ませ車で縁日にきた。
 護衛もなにもいない二人だけのデート。そのことに少し浮かれていた迅だったが、それも一瞬で崩れ去ってしまった。そう二人きりで行動ができる訳がないのだ。この縁日、なにを隠そう三雲組若衆が的屋をしているのだった。
 いくら二人きりといえどそこら中に三雲組若衆がいるのでは安全といえども釈然としない。
 だがそれでもデートには変わりないのだから良しとしようか。迅ははしゃぐ尚人の手を握ると、歩を進めようとした。
「待って! 迅、準備があるんだけど」
「……なんの準備だ。お前の用意した浴衣は着ただろう」
「フフ、僕といったら?」
「……まさかワイン持って歩くつもりか? 流石にそれはやめておけ」
「違うよ! 今日は禁酒……しないけどワインは持たないよ。ほら、ここってうちの的屋でしょ? 身内に僕と迅がきてるってバレたら困るんだよね」
「何故だ」
「だって甘やかすでしょ。そんなの嫌なんだよ。僕は本気でこの縁日に挑むんだから、バレたら困る。それに敬うような態度とられたら一般の人にヤクザってバレるじゃない。それも面倒だし」
 そう言った尚人は助手席に戻ると、なにかを取り出そうとごそごそとしだした。
 そんな後ろ姿を見つつ、迅の視線はある一点に留まっている。尚人の項だ。少し長い襟足の隙間から見える白い項、そこに咲くのは赤い痕。色気倍増である。
 普段はスーツを着てばかりいる二人だが、今日は縁日ということで浴衣を着ていた。尚人は臙脂色の浴衣、迅は紺色の浴衣。見慣れない格好の上、浴衣を着ると色気が増す。いつも以上に迅の目に尚人が可愛く見えて興奮した。
 迅がこっそりと発情しているなどとは露にも思わない尚人は、お面を二つ取り出すと迅の目の前に翳した。
「フフ、これだよこれ! これをつけたらバレないと思わない?」
「……わざわざ用意したのか、お前は」
「まあね。用意周到でしょ。はい、この地味なのが迅のね」
 尚人は迅に狐のお面を手渡すと己はポカチュウのお面を装着した。首から下は色気で溢れているのに、首から上はギャグのようだ。良い歳をした大人がお面で顔を隠すなど珍妙な事態である。
 だがそれに従わなければいけないのだろう、尚人の言うことにも一理あるのだから。
 迅は渋々と狐のお面を見つめると、諦めた様子で装着した。
 お面をつけたからといってバレないかといえば些か怪しいような気もするが、尚人の気が済むのなら仕様がない。
 目に見えるほどテンションのあがった尚人の手を握ると、今度こそ歩き出したのであった。
「迅! 迅! 金魚掬いやりたい! あ、射的も! 待って、ヨーヨーもやる!」
「わかったわかった。全部付き合ってやるからちょっとは落ち着け」
「あー! ヒヨコ! ねえ、ピンクのヒヨコがいる!」
 屋台がずらりと並ぶ道にでれば尚人は別人のようにはしゃぎ回った。
 お面で表情が窺えないが、普段はすましている瞳が子供のようにきらきらと輝いているのだろう。
 今まで聞いたことのないような声色を出し、子供のような行動をとる尚人。なんだか新鮮に見えて迅は知らずの内に笑みが零れた。
 世襲制のヤクザの家系に産まれた二人の実家は全国区で巨大組織でもある。
 幼いころから抑制され育った故に一般人が経験するようなことを経験していなかったり、当たり前のことが当たり前じゃなかったりする。まさにこの縁日がそうなのだ。
 迅にとっても尚人にとっても、子供の頃に縁日を楽しんだ記憶がない。
 仕事で的屋衆をまとめたり仕切ったり、現状視察にくることはあっても客側になったことなどなかったのだ。
 きっと尚人は縁日にきたかったのだろう。ずっとそう思っていたのだろう。
 子供よりも子供みたいな尚人の行動を見て、迅はそんなことを思っていた。
「迅? ねえ、聞いてるの! フランクフルト食べたいんだけど」
「……その前にお前、その手に持っているのはなんだ」
「フフ、馬鹿なの? どっから見てもビールでしょ」
「何杯目だ? 今日は三杯目までしか飲まないって約束しただろ。それは没収だ」
「ちょっと! あー! 飲んだ! 僕のビール飲んだ! ビールは好きじゃないけど、それは僕のビール!」
「お前は禁酒だ。もう飲まさん。飲むと言うなら帰るぞ」
「……帰るの?」
「……そんな悲しそうな声で言わなくても、飲まなければ帰らない」
「……フフ、仕方ないね。我慢するよ」
 その言葉に少し驚いた迅だったが、表情はお面が隠してくれた。
 あれほどまでにアルコール依存症の尚人が、我慢すると言った。縁日の方が勝ったのだ。
 そうまでしてここにいたいのだろうか。迅はそう思うと尚人が愛しく見えて、今すぐぐちゃぐちゃに犯してしまいたくなった。
 しかしまだ我慢だ。もう少し我慢だ。尚人がビールを我慢すると言ったように、迅も我慢をした。
「じゃあ、フランクフルト買いに行くか」
「わたがしとカキ氷とたこ焼きとベビーカステラと焼きそばも食べたい」
「……少しずつにしろ」
 屋台全てを指差す尚人に、呆れつつも付き合ってやる迅なのであった。

 粗方食べつくし、遊びつくした尚人と迅。いろんな屋台を回って迅は一つ重大なことに気がついたのだ。
 それは屋台にいる三雲組若衆が、自分たちの存在に気がついているということだ。
 ほとんどの屋台は貸し屋台で一般人がやっているのだが、ちらほらと三雲組若衆が出している屋台もある。その屋台にいけば全員が少し不自然な応対をするのだ。飽く迄も自然に振舞うように、サービスをしている。
 たこ焼きの数が多かったり、金魚すくいの網をおまけでくれたり、そう些細なサービスだ。
 第一お面をつけて顔は隠しているが、声と名前だけは隠しようがない。体格や雰囲気、風貌でバレてしまうものなのだ。特に尚人に至っては若衆の親分なのである。バレない方が可笑しい。
 幸いバレていることに気付いているのは迅だけだ。若衆も尚人もお互いがお互いにバレているなどと、気付いてもいない。
 それに水を差すほど子供でもない迅は、知っていつつも口を閉ざし見知らぬふりを続けるのであった。
「迅! あれ! あれやりたい! 僕、ハジキ撃つの上手いんだよ。きっと迅には負けないね」
「……あれは射的だからな。ハジキではない」
「どっちだって良いでしょ? フフ、迅ってほんと細かいね」
 辿り着いたのは射的。丁度三雲組若衆が出している的屋だった。
 縁日用に大量に崩した小銭を入れたお財布を取り出すと、尚人は机にドンと置いた。
 射的にいる若衆は二人の姿を見ると焦ったような表情になったが、直ぐに顔を作りにこにこと微笑んだ。
「らっしゃ〜い! 兄ちゃんたち運が良いな、ただいまタイムセールス中なんだよ! 本来なら一回300円で5発のところ10発になる! どうだ、お得だろ? やってくか?」
「フフ、景品当たるまでするよ」
「そ、そりゃあ意気込み良いね、兄ちゃん……。む、難しいけど大丈夫か?」
「僕に不可能なんて文字はないんだよ。ほら迅、ちゃんと僕の荷物持ってよね」
「……ほどほどにしとけよ」
 意気込み良く鉄砲を手にすると、尚人はしゃがんでポーズをとった。
 縁日の射的はある意味詐欺に近いところがある。なかなか倒れないように設定してあるのだ。それを知っているのにも関わらず、景品をもらうまでするという尚人。これでは若衆が冷や冷やものである。
 迅は呆れつつも、活発的な尚人の行動にデレっとしてしまうのであった。
 それから数十分。尚人は大健闘をした。
 尚人がくるとわかっていたのならずるをしてまで尚人に景品をとらせようとする若衆だが、急な訪問のためなにも策をとっていない。
 はらはらとしながら尚人の行動を見ていたが、なんとか3600円を使ったところで景品を射止めることができた。
 二人にとっては取るに足らないはした金でも、回数から見れば12回だ。
 景品を獲得したときの尚人のテンションも目を見張るものがあったが、若衆のほっとした表情も見ものだった。
 ポカチュウのお面の下では可愛い顔をしているのだろう。見られないのが非常に残念だ。
 迅は景品を嬉しそうに抱きしめる尚人を見て、限界が近づくのを感じていた。

「……尚人、……美味いか?」
「まあ、普通。食べる?」
「いや、遠慮しておこう」
 りんご飴を舐めながら屋台を物色する。そんな尚人の横顔を見つつ、迅はゆっくりと歩く。食事をするときのみ尚人はお面を後頭部に回して素顔を晒していた。
「ン、……食べにくいなあ、もう」
 りんご飴を舐めるために時折ちろっと出る尚人の真っ赤な舌。それがりんご飴に絡まり、甘味を味わって引っ込んでゆく。
 唇についた砂糖を舐め取るように舌が出れば、もうそれだけで迅の理性は崩壊しそうだった。
 必死になって別のものを見ようと試みるも、気になって視線を逆戻りさせてしまう。どうしようか、と悩んだ挙句でてくるのは仕様もないことばかり。
 慌てて振った話題も興味のないことだが、今は少しでも気を逸らしてしまいたかった。
「な、尚人、そういえば射的の景品はなんだったんだ」
「ああ、あれ。子供用の手錠だよ。フフ、子供用の手錠ってなんに使うんだって話だけどね。そう思わない?」
「……手錠?」
「きっと警察ごっことかするんだろうけど……ほら、ちゃちいでしょ? でもちゃんと機能するんだよ。結構凄いよね」
 包装をとって裸になった手錠を取り出すと、ちゃらちゃらと迅の目の前に翳して見せた。
 尚人の声がどこか遠くに聞こえる。迅の頭の中ではサイレンが鳴りっぱなしなのだ。
 いやらしく覗く舌に赤くなった唇。玉になった汗が浮かび上がり、尚人の首筋を伝い落ちていく。晒した素顔は暑さ故に時折歪む。そして極めつけの手錠。
 ガラガラと崩れ去っていく迅の脆い理性。ここまでもった方が奇跡といえよう。
 迅は尚人の手首をきつく握り締めると、人混みを縫うようにとある場所へと連れ去っていった。
 最初は不思議そうについていった尚人だが、そこにつれられてからその意図に気付くのである。そう気付いてもとき既に遅し、であったのだ。
「ちょ、っと……迅……!」
「エロい尚人が悪い。俺の所為じゃない」
 尚人を連れてきた場所、そこは少し離れたところに建っている神社の本殿の裏の茂みである。祭囃子の音や、人の騒ぐ声、騒音などが遠くで聞こえる。
 人気も、人がくる気配すらない。そう、ことをするのには致している場所であった。
「手錠まで持って、……我慢した方だ」
「フフ、なに馬鹿なことを言ってるの? これは景品。まだ僕は遊ぶんだから戻るよ、ほら早く」
「……それは聞けない注文だな」
 迅の元からするりと抜け出し、再び屋台が密集してある場所へ行こうとした尚人だったが迅に捕らえられ、行くことができなかった。
 手に持っていた手錠を奪われる。迅はそれを楽しげな表情で見つめると、尚人の両手へとガシャリとつけた。
 玩具の手錠といえども精巧に作られているそれは壊そうと思っても壊せるものではない。
 尚人はガシャガシャと乱暴に左右に引っ張るように動かすが、手錠はびくともしなかった。
「迅! ふざけるのもっ……んぅ」
 尚人の煩い口を塞ぐように迅は噛み付くようなキスをした。尚人の拘束された両手を己の首に回し、身体は木の幹に押し付ける。
 ここまでされてしまえば、もう尚人に抵抗できる手立てはない。
 逃げ惑う舌を捕らえられ、強引に絡ませてくる迅の舌。幾度となく教え込まされた迅との行為。
 顔に似合わずキス魔な迅に唇を奪われてしまえばもう、尚人は諦める他ないのだ。
 生暖かい舌先が口腔を這い回り、なぞるように歯列を確かめる。
 自分も、と尚人は舌を動かそうとするがそれさえ許してもらえずに、迅は強引に舌を蹂躙した。
「ふ、ン……っ」
 祭囃子の音が聞こえるのに、口腔を犯されている所為で耳につくのは唾液が鳴らす水音ばかり。
 神経が敏感になっているだけなのか、意図してそうなっているのか、くちゅりという音が鳴る度に尚人はぶるりと震えた。
 尚人の口元からは飲みきれない唾液が伝い落ちる。熱に浮かされた身体が暑くなり、しっとりと濡れた肌がべたつくような気がした。
「は……じ、ん」
「浴衣は犯しやすくて便利だな」
「っ、う……ン! は、っ……」
 尚人の浴衣の襟元をぐっと掴むと、上に引っ張る。少したるんだ胸元からは簡単に手の侵入を許してくれた。
 汗でしっとりとしている肌を撫ぜるように掌で馴染ませ、期待に立ち上がった胸の突起を優しく摘んだ。柔らかかったそこが急速に硬度を増し、ふにりとした感触からこりこりとしたものに変化する。
 それに気を良くした迅は突起から指を離し、焦らすように乳輪に触れた。
「ぁ、あ……っん、んん」
 抵抗しようともがく尚人の手が動くたびにガシャガシャと鳴る。汗が伝い落ちる首筋に舌を寄せながら、乳輪を摘むように愛撫した。
 その曖昧な刺激にびくびくと震えるだけの尚人。せめてもの抵抗にと肩を噛んでみるも、迅はただ嬉しそうに笑うだけだった。
「じ、ん……! もっ、やめ……!」
「ここか?」
「ち、が……え、んにち、戻るっ」
「それはできないな」
 尚人の足を膝で割り、乱れた浴衣の境目からもう片方の手を侵入させた。
 暑いのだろう。太ももですらうっすらと汗をかいている。焦らすようにゆっくりと手を上にあげていけば、尚人が切なげに鳴いた。
「ゃ、だ……まって」
 嫌だ嫌だと言う尚人の中心はもう既に勃ち上がっており、ボクサーパンツを濡らしていた。
 存在を主張するようにひくひくと震える中心を握り締めてやれば、尚人が一際大きく身体を震わせた。
「邪魔だな……。尚人、切るぞ」
「っは……?」
 尚人の身体を弄っていた手を引き抜くと、迅は懐から護身用のドスを取り出した。
 月明かりに照らされるドスの先端。視線を下降させると見えるのはボクサーパンツ。
 慌てて迅を止めようと尚人が口を開く前に、迅は無残にも尚人のボクサーパンツを切り剥がした。
 ハラリ、と下に落ちたボクサーパンツ。迅は満足そうに笑うとドスをまた懐に忍ばせ、尚人の身体を蹂躙するために手を入れた。
「さ、い……てっ! 死ねっ!」
「終わったらお前の我儘でもなんでも聞いてやるから諦めろ」
「っ、は、……ン、ん……っ!」
 赤く熟れた突起を弄られ、勃起した中心も優しく上下に刺激される。身体を支配する快感が尚人の動きを制した。
 にちにちと粘着音が響き、鼓膜まで犯されているようだ。極限にまで熱くなる身体がどっと汗を出し、高められた中心は今にも爆ぜそうになる。
 じわじわと襲いくる波に逆らうこともできず、尚人は小さく喘ぐと迅の掌中に欲を吐き出したのであった。
「は、……も、……」
「尚人、……可愛いな、お前は」
 本当に愛おしいといわんばかりの表情を迅が浮かべる。その所為で尚人の喉元まで出掛かっていた文句が引っ込んだ。
 そんな顔をされては言える文句も言えなくなるではないか。
 誰よりも用意周到な迅は懐からローションを取り出すと、尚人が吐き出した白濁と混ぜるように掌に馴染ませた。
「悪いがもう俺も限界だ。早く強請ってもらわないとな」
「っ、あ……! あうっ」
 焦らすことも慣らすこともせず、迅は尚人の中に指を二本侵入させるとローションを馴染ませるように中へと塗りこんだ。
 ぐちゅりと幾分か重みのある音をさせ、早急に中を慣らしていく。力が抜けるようにと胸の突起を弄り、中は前立腺ばかりを刺激してくる迅。
 開発されつつある尚人の身体は指二本では物足りなく感じ、うずうずと疼くような感覚が支配した。
 もっとと強請るように締め付ける内壁。離さないとばかりに蠢けば、迅はあっさりと指を引き抜いてしまう。
 切なげに声を漏らした尚人に、迅はにやりと笑みを浮かべると怒張した自身を取り出した。
 最初からそのつもりだったのだろうか、絶対そうだ。そのつもりだったのだ。パンツすら穿いていない迅を見て、尚人は呆れ返ったのである。
「フフ、ほんと迅ってどうしようもない下半身男なんだね」
「尚人限定でな。ほら、早く言え」
「っちょ、っと! やめて」
 迅は尚人の片足を掴むと上にあげ、怒張した自身を秘部に擦り付けた。
 ふ、と耳元で息を吐けば尚人の身体は期待に震える。ひくひくと収縮をする秘部だけが、正直だった。
「これが欲しいんだろう? 尚人」
 ぐ、と少しだけ挿入された迅自身。尚人はその刺激に堪らなくなると、拘束された状態の手で迅の髪の毛をぐしゃりと握った。
 腰を揺らし、みっともなく懇願をする。
 本当はもっと縁日を楽しみたかった。迅と二人で祭りというものを経験したかったのである。だけどこれもある意味、忘れられない思い出になるのだろう。
 そう自らに言い聞かせると、尚人は口を開いた。
「いれて……!」
 その言葉とほぼ同時に、迅自身が押し開くように中に侵入してきた。
 限界だったのだろう。一気に貫かれた所為で尚人は一瞬だけ息を詰まらせた。急激な刺激に迅自身をぎゅうぎゅうと締め付けるのがわかる。だが緩め方などわからないほど強い快感と衝撃だったのだ。
 眉間に皺を寄せ、苦しげに息を吐いた迅は尚人が落ち着くのを待つことをせず、腰を強引に動かし始めた。
「ぁっあ、っ……あ……っ!」
 ぴたりと密着をして、動き出す迅。お互いに無理な体勢をとっている所為で、身体の節々が痛みを訴える。
 それでも離さないとばかりにくっつく迅に、尚人は諦めると迅のされるままとなった。
 押し付けられた背中が痛い。ごつりとした木の幹が尚人の背中を痛める。ぽたぽたと汗が伝い落ち、浴衣をしっとりと濡らしていった。
 わいわい騒ぐ人々の声。祭囃子が縁日の夜を演出する。
 切り取られた世界で獣のような睦み合いをしながら、必死になってお互いを求める二人だけが異質な存在だ。
 落としたりんご飴に集る蟻。甘い蜜を垂れ流す尚人に食いつく迅に、ほんの少しだけ似ていた。
 子供のころに経験できなかった縁日を、経験することができた尚人だったが誤算という結果に終わってしまった。ある程度は予想できたことなのだが、迅の行動パターンをすっかりと忘れていたのだ。
 それでも尚人にとってはきらきらと輝くような幸せな思い出。決して口に出すことはないが、宝物のような時間だったのだ。
 誰よりも深く愛し、求めてくれる迅の腕の中、尚人は幸せな気持ちで満たされていた。
 きっと一生忘れない。大切な夏のできごとだった。