Vt.企画エロ祭★尚人の場合
 迅と遊んでばかりいる訳ではない。珍しくも仕事の話を持ち出してきた迅に付き合うふりをして真面目に話をすること数時間、お酒を交えていた所為かそれとも元々やる気がなかった所為か早くも尚人は睡魔に襲われていた。
 会うのはいつも通り清滝組が経営するホテルの最上階。禁止されていたワインを手に馴染んだ迅の声を聞き流す。大切なことを言っていると理解していても、それは脳内に染みる前に溶けていくのだ。
「……尚人? 聞いているのか?」
 書類から目を離した迅の視線が突き刺さる。尚人はワインをテーブルに置くと、ゆったりとした一人用ソファで小さく伸びをした。
「聞いてません〜」
「じゃあもう一回説明するから、良く聞いておけ」
「えーもう聞きたくない。仕事は明日にしよ。僕眠いし〜」
「……仕様がないな」
 この案件が至急のものだとわかっていても、肝心の尚人がやる気にならなければ進むものも進まない。取り敢えずの猶予はあるので明日でも良いかと諦めた迅は書類をテーブルに置くと立ち上がった。
「フフ、迅、連れてって」
 手を伸ばして子供のようなことを言う尚人の前で足を止めると、伸ばしている手を引いて己の懐へとその身体を収めた。
 前より酒臭さはしなくなってきているものの今日とて酒を許した途端オーバーヒートして呑み続ける尚人に呆れもした。けれど止める間なく胃に注がれていく赤い液体を見て、言葉を紡ぐことが憚れてしまったのだ。
 珍しくごろごろと機嫌の良い猫のように甘える尚人の後頭部を撫ぜながら、迅は指通りの良い尚人の髪に鼻先を埋めた。
「んー?」
 尚人の匂いを探すようにすんすんと鼻先を鳴らす。髪からは仄かに香るシャンプーとアルコール、尚人の持つ匂いが混じっていて酷く安堵を覚える。
 そのまま下がるよう耳や首の匂いも嗅げば、尚人は鬱陶しそうに身動ぎするものの迅の後頭部を深く抱き込むよう腕を巻きつけてきた。
「フフ、甘えてるの?」
 血色の良い唇が形を象って言葉となる。甘さを含んだ声音と色鮮やかな赤に引かれて迅が顔を近付ければそれを待っていたのか尚人は目を瞑ると顔を少し横に傾けた。
 ふに、と触れるだけの口付け。いつもより丁重に優しく何度も角度を変えて触れるだけのそれを繰り返せば、くすぐったさに震えた尚人の唇が誘うように開かれた。
 真っ赤な舌が尚人の白い歯から押し出されるようにして出てくる。迅はそれを柔らかく噛むと、そのまま逃げる尚人の舌を追いかけるようにして口腔への侵入を果たした。
 思ったよりも熱い粘膜が舌先に触れる。自ら誘った癖に積極性のなくなった舌の動きに焦れて、迅が強引に二つの舌を合わせるようにして絡ませれば、尚人の瞼は小さく痙攣するように震えた。
「ふ、ン」
 鼻にかかった蕩けるような声が迅の欲を高めていく。そこまで本気で襲うつもりがあった訳ではなかったが、それで火をつけられた。
 わざと音を立て好きなように口腔を甚振る。尚人の抵抗が和らいできた頃合を計って舌を抜き出せば、不満げに漏れた声が尚人の唇から紡がれた。
「じ、ん」
 普段は嫌がる癖にいやに甘えたがりだ。迅に擦り寄る尚人の髪を撫ぜると、迅は尚人の前に跪いて向き出しになっている足首に唇を付けた。
 白いバスローブから見える尚人の足は白い。普段日に焼けることがないその白さに迅は興奮を覚えた。
 ねっとりとした舌使いで足先を舐める。尚人を見上げるように目線を上げれば、戸惑っている琥珀色の瞳と合った。
「ん、……っ、んん」
 風呂に入ったといえど足を舐められるのには抵抗があるのだろう。僅かに強張った尚人の身体は迅が与える微量の愉悦に抗うも最後まで抵抗しきれないのか引っ込めることもしないままただ宙に浮いていた。
 踵を持ち親指を口に含む。性器を甚振るときを再現させるかのような動きに尚人は幾ばくか呼吸を乱れさすと、髪の毛をぱさぱさと左右に揺らした。
「はっ、迅……」
 神経が向き出しになったかのような感覚だ。足先に集中したそれは迅の舌の動きに過敏になると、期待をするかのように己の意思とは関係なく揺れる。
 濡れた音を立てながら熱い舌が指の間に入り込む。刺激されたことなどないそこを舐められると、予想以上の悦楽を齎してくれるのだと初めて知った。
 びくんと仰け反った足裏。咎めるように軽く歯を立てられて、尚人は堪らずに人差し指の第二間接を噛んだ。
「ふ、っく……ン」
 視点を変えれば綺麗にするだけのようにも思える迅の舌。足先を舐められている、たったそれだけのことなのに尚人はごうごうと燃える火を燻られているかのような感覚だった。
 下半身に集った熱がじんわりと広がり、いつも以上に敏感になった肌。早くも尚人の性器は硬く張り詰めていた。
 追い立てられるような迅の愛撫に、尚人は甘さを含んだ喘ぎを指先で吸収すると堪らずに伸ばした手で制止をかけた。
「迅、も、……」
 たったそれだけの言葉だったが、迅は理解したようだ。いや最初からわかっていたのだろう。人の悪い笑みを浮かべると、見せつけるように土踏まずをべろりと舐め上げた。
「もう限界か? 足で感じるなんて尚人の身体は敏感だな」
「……煩い」
「どうしてほしい?」
 聞いておいて聞くつもりがない迅は舌を滑らせるよう脹脛を柔らかく噛むと、尚人の筋肉の感触を歯で味わった。
 スーツの上からでは華奢なイメージを持たれる尚人の身体ではあるが、脱がせてみればそこは引き締まった身体に薄っすらと筋肉が付いている。迅の目には痛いほどの劣情を感じさせてくれる身体付きだ。
 しなやかに伸びた足を掴みぐっと上へと持ち上げる。そうすればバスローブに隠れていた足が全て露見して、人工的な灯りの下隠されていた部分が晒されることとなった。
 普段は特別意識して見ることなどない尚人の太股。筋肉できゅっと締まっているかと思いきや歯を立ててみれば思いのほかそこは柔らかい。
 尚人の肌の感触を丹念に味わうよう唇を付ければ、もう片方の足が迅を咎めるようにして絡み付いてきた。
「迅……っ」
 切羽の詰まった声で名を紡がれる。掠れ気味の荒い息で尚人は迅を誘うのだ。
 一度も触れていないのにも関わらず尚人の性器は天を向き、今にも爆ぜないとばかりに硬く張り詰めている。先走りがししどに零れ落ち、そこはいやらしく光っていた。
 だが敢えてそこには触れずに、迅は先程から収縮を繰り返している尚人の後孔へと舌を忍ばせた。
 後孔を舐められることに酷く抵抗があるのか、尚人がびくんと身体を震わせたのが触れた掌から伝わってくる。だけどそれを無視して解すよう舌を差し入れれば、肉壁が反応とは別に迅を迎え入れるようきゅうっと締まった。
「は、……っ、ぁ」
 縮こまった片足が迅を挟み込む。なりきれていない抵抗に反発するよう舌で唾液を注ぎ込み不規則な動きで中を犯してみせると、そこは痛いほどに収縮する。
 過ぎる刺激に尚人のあられもない声が大きくなる。聞こえないよう唇で噛み締めても漏れる蕩けきった喘ぎだとか、やり過ごすためにかぶりを振った所為でなるぱさぱさという髪の音だとか、小刻みに震える内股だとか、全てが迅の劣情を煽るだけにしかならない。
 熱く絡み付いてくる肉壁の感触を舌で思う存分堪能すると焦らすこともなく引き抜いた。抜けていく舌に後孔だけは素直で引き止めるようきゅうと窄まるが、その誘いを振り切れば尚人の口からは物足りなさげな声が零れた。
 思わず視線を上げれば、尚人は誘うように下唇をぺろりと舐めた。
「ぁ、ん……迅、もっと……」
 期待に応えるよう指を挿入する。舌だけで解れたのか、とろとろに緩んだそこはなんなく指を飲み込むと欲しがるよう蠢いた。
 ぐるりと掻き回すよう指を動かす。指の腹で粘膜を押し上げ、敏感な部分を擦りあげる。尚人はきつく目を瞑ると喉元を曝け出すよう仰け反った。
 迅が与える快楽に一つ一つ過敏に反応して痴態を曝け出してくれる尚人。いつもより酒に酔っている所為なのか、珍しくも尚人は自主的に腰を揺らすと迅の指を貪欲に味わった。
「尚人、やけに積極的だな」
「フフ……たま、には」
「酔っているのか? ……お前も酒に酔うのか?」
「さあ、どうだって良いじゃない? 今は、……ね、迅」
 伸ばされた尚人の両腕に囲まれた迅はそのまま尚人が仕掛けてくる動きを受け入れた。迅の下唇を甘く噛んで顎先に口付ける。尚人の愛撫に返すよう鼻先を目元に擦り寄せれば、尚人は甘えた指先で迅の髪をくしゃりと握った。
 抜き差ししていた指先を浅いところに変える。ひくひくと蠢く入り口をゆるりと撫ぜれば尚人は堪らずに足を閉じようと迅の身体を挟み込んだ。
「ぁ、あ、……っあ」
 肌蹴たバスローブから覗く乳首に爪を立て、きつく摘み上げる。ずれた衣服の下に隠れていた肩も噛んでみれば、尚人はびくびくと背中をしならせて痙攣する。
 肌に触れるだけ、たったそれだけで漏電したかのような反応の尚人に迅の熱も限界にまで達していた。
 今日の尚人は一段と迅の目に毒だ。尚人がなにもせずとも立っているだけで欲情することができる迅にとっては、結局のところ尚人がなにをしてようが理性を保つことができずに襲ってしまうのだけれど。
 それでもいつもより愉悦に貪欲になった尚人の反応に意図せず焦らされていることは確かだ。
 上気した肌が淡く色付く。荒い呼吸で乱れた胸は上下して、後孔は指先では物足りないといわないばかりに迅の指を締め付ける。悦に染まりきった尚人の瞳を覗き込めば、尚人が不敵に笑った。
「迅、も、イれて」
 伸びた尚人の指先がバスローブを押し上げる迅の性器に触れる。どくんと脈打ったそこは布越しでの刺激ですら過ぎるほど張り詰めていた。
 じんわりと滲む先走りが恥ずかしい。いつまでたっても尚人との行為に果てなど見えず、日増しに膨らんでいくばかりだ。飽きることもなく身体中隅々味わってもまだ足りない。貪欲になっていく熱だけがここにはある。
 たった一人の人間に狂おしいほど欲情するということも尚人に教わった。尚人の指先が性器を象るように触れ、もう一度欲しいと言われればもう迅は焦らすということを諦めた。
 なけなしの理性を掻き集めて最後に労わるような言葉を投げ掛けてみるも、尚人は首を横に振るだけだった。
「ここで、良い。ベッドまで待てないでしょ?」
「……そう、だな」
 押し開くよう左右に分けられたバスローブから迅の怒張した性器が露になる。上下に動いた尚人の喉が鳴って、迎え入れるよう足を開いてみせた。
 そのまま焦点を合わせて性器を宛がった迅は、ゆっくりと押し入れることもせずに一気に中へと押し込めると先端で貫いた。
「ああっ……!」
 脳天を貫かんばかりの刺激が尚人を襲う。ちかちかと点滅する瞼の裏、白黒とした世界で過ぎた刺激だけが下肢を伝って脳へと伝達してくれる。
 息を吐く間もなく上下に揺さぶられれば、誘ったのは己だというのに待ったをかけたくなった。
 びりびりとした電流が足先から頭の先まで駆け巡る。指や舌では味わえない愉悦が身体を支配して尚人の熱を高めていくのだ。
 飢えた野獣のように尚人を貪る迅と、それを受け入れる姿勢をみせつつも待ち望んでいた尚人。お互いに隙間などないほどぴたりと肌を重ね合わせると、肌から伝わる体温や汗、心音をも味わった。
「は、っあ、ああ、っ」
 尚人の喘ぎに掻き消されるような小さな声であるが、耳元で詰まった息混じりに喘ぐ迅の声が愛おしい。くすぐったさ半分で小さな刺激を齎してくれると尚人の心を満たした。
 腰を揺らして迅の硬く張り詰めた先端が良い場所に当たるようにすれば、思った通りの快感をくれる。
 ぎちぎちに拡げられたそこは迅の性器を限界まで包み込むと、逃がさないとばかりに締め付けを強くさせた。その度にびくびくと痙攣する迅の性器が内壁を伝ってくる。
 お互いに過ぎた刺激が脳を麻痺させて、劣情塗れにさせるのだ。早くも限界に上り詰めてしまった尚人は身体をぶるりと震わせるとそれを言葉にした。
「ぁ、んん……っ、迅っ、も……」
 いく、と言いかけて口を噤む。確かに感じていたのは絶頂だったのにも関わらずどこかがいつもと違う。
 欲で塗れた脳内を一掃してそれを探るよう深く考えれば、その絶頂は射精ではなく、別のものだというのがわかった。
「早いな、……」
「ち、違う、待って、出る……」
「ん? イくんなら、イっても良いぞ」
「トイレ……漏れるから、トイレ行きたいっ」
 その言葉に思わず迅も腰の動きを止めた。冗談だろ、と言わんばかりに尚人の表情を見れば思ったよりも真面目な顔をして青褪めていた尚人がそこにはいた。
「……本当なのか」
「だから早く抜いて」
「ここで出せば良いだろ。ベッドじゃないし問題などない」
「フフ、馬鹿? 問題ない訳ないでしょ!」
「大丈夫だ。掃除なら俺がしてやる。それに俺は気にならないからな。お前のものならなんだって受け入れられる」
「そういう問題じゃ……って迅!」
 どこか楽しげに笑った迅は嫌がる尚人の身体を深く腕に抱き止めると、腰の動きを再開させた。
 じたばたともがく尚人はそれでも抵抗をしようと必死に腕を突っぱねるが、押さえつけられている以上どうにもならない。
 がくがくと揺さぶられ、爪先までぴんと張る。わざと焦らすよう前立腺を掠める動きに尚人はもどかしいやらトイレに行きたいやらで半分パニックに陥った。
 迅の肩に強く爪を立てて途切れた声で懇願する。だけど迅は笑うだけで動きを止める気配もない。捩じ込むように最奥を突き、ぐりぐりと押し付けられる熱の塊。
「ぁ、あ……っ迅っ、迅! やっ、やだ……出るっ!」
 じんわりと滲む視界がちかちかと白む。尚人の身体を支配する熱が射精によるものなのか、それとも排泄によるものなのかわからずにぐるぐると渦巻くだけ。
 頭の先から爪の先まで熱に浮かされているようだ。這い上がる劣情に、堪えきれなくなった尚人は迅の肩に強く歯を立てるとぶるりと痙攣させた。
「あ、あ、ぁ……」
 勢い良く尚人の性器から白濁が溢れ出すと、続いてちょろちょろと尿が出た。思ったより我慢していたのか少量で長く続く排泄の仕方に尚人は羞恥で脳が真っ赤に染まるような感覚を覚えた。
 迅はにやにやしながらそれを見ているだけだ。ししどに濡れた腹を指でなぞると、耳元で辱めを強調させるような言葉を吐く。
「いっぱい出たな、尚人。かわい」
 どれほどの屈辱かわかってもいない迅は平然とそう言ってのけると、尚人の唇に触れるようにちゅっとキスをした。
「じゃあ動くぞ? 俺イってないし」
 軽い口調の迅にどこかでぷつりと切れた尚人は渾身の力を振り絞ると、迅の顎を強く殴った。がきっと嫌な音が部屋に響き身悶える迅をそのままに、伸ばした足で蹴り落とすと排泄で濡れたバスローブを脱ぎ捨て一目散に寝室へと駆け込む。
 背後では迅の制止の声が聞こえたが無視である。そのまま寝室の扉にロックをかけると幾ら迅が呼びかけても応答することなく一晩中閉じ篭もり続けたのである。
 暫く迅とセックスするのは控えようと誓った瞬間でもあった。