吉原と過ごす二度目の夏がやってきた。
去年とは違い、付き合っている二人は夏休みをほぼ一緒に過ごしていた。
吉原家へと赴き、毎日いろんなことを経験する日々。
海にも行ったし、プール、旅行、天体観測もした。
夏の風物詩と言われるものは一通り経験したのだ。
そんな折、吉原は和泉の地元で花火大会があることを聞かされた。
幸い和泉と吉原の実家はさほど離れている訳ではない。
車で三十分程度の距離なのだ。
それならば、ということでその花火大会に参加することを決めた二人は急遽浴衣を揃えるとバスで和泉の地元へと向かった。
空が濃紺になるにつれ、人も集まってくる。
それほど大きな花火大会ではないといえど、ほどほどな規模のそれには結構な人が訪れていた。
カラコロと音を立てながら下駄で歩く二人。
はぐれないように手をしっかりと握り締めると、人混みを縫うように歩いた。
「夜になると結構涼しいよな」
わいわいと人の声で溢れかえる出店通り。
色んな屋台がずらりと並ぶ様は圧巻だ。
どれにしようかと視線をさ迷わせる吉原に、和泉はある一点を指した。
「フランクフルト食べたい」
「じゃあ買うか?」
「うん。いっぱい食べたい、せっかくだし。……それにしても相変らずだなあ、このお祭りも」
「……あー、去年とかは望月ときてたんだっけ」
「あと兄貴とね。今年はよっしーとだけど」
「……誘って悪かったか?」
「ううん。嬉しかった。よっしーとの思い出、一個増えたし」
嬉しそうに破顔する和泉を抱きしめたい気持ちに駆られた吉原だったが、我慢をすると宙をさ迷う手を引っ込めた。
その代わり繋がっている手を強く握り締めると、屋台へと向かうのであった。
縁日との屋台といえば昔はある程度限られてきたが、今はいろんなものが出店されている。
ベタな屋台から見慣れない屋台まで、いろいろとあるのだ。吉原と和泉は全て買うことはなくとも、一個一個の屋台を覗きながらゆっくりと歩を進める。
お揃いのお面を購入して後頭部に被せたり、金魚すくいで無駄に競争をしてみたり、ヨーヨーつりでヨーヨーをとったり、遊べる屋台は全て網羅した。
時間を忘れてはしゃぐ和泉と吉原。
時間が進むにつれ人も増え、出店通りもごちゃごちゃとしてくる。
ぼうっとしていたらはぐれそうだ。
離れないように和泉の身体を抱き寄せ、少々歩きにくい体勢で屋台を見た。
「……暑いか?」
「う、ううん……平気。でも人多くなってきたね」
「そうだな。はぐれるなよ? つーか手を離すなよ」
「……うん」
きゅ、と小さく伝わる振動。
しっかりと握られた手に吉原は満足すると空腹を満たすためにご飯系屋台へと足を向けた。
フランクフルトに焼きそば、たこ焼きなどベタなものばかり食べたくなるのは何故なのだろうか。
家に持ち帰ったら美味しくないとわかっている食べ物だが、この場で食べると美味しく感じるものだ。
フランクフルトを美味しそうに頬張る和泉に、よからぬ妄想をしながらじいと見つめる吉原。
熱の篭った視線に気付いたのか、和泉が振り向けば少々気まずそうに目を逸らされた。
「……なに?」
「え? あ〜いや、別に」
「なんなの? 気になる!」
「あー……いや、……オレのも舐めてくんねーかな〜って」
「ばっ……さ、さいてー! 良くそんなこと言えるね!」
「うっせー! 妄想なんだから自由にさせろよ!」
「あ、開き直った!」
「良いじゃん、別によ〜。あ、ケチャップついてる」
「ぎゃっ、あ」
フランクフルトを持っている和泉の手を吉原は落ちないようにしっかりと上から握り、まぬけにも開いている唇の横にキスをした。
本当はケチャップなどついていなかったのだが、それはただの口実だ。
ざわり、と辺りがどよめいたような気がする。
真っ赤に熟れた和泉は唖然とした表情をしてみせたのだった。
「なんて」
にへら、と笑ったのが駄目だったのだろうか。
吉原は和泉に殴られてしまった。
ぷんすかと怒った様子で残ったフランクフルトを頬張る和泉に、暫くは口を聞いてもらえなかったのである。
だが手を離さないということは、そういうことなのだろう。
機嫌を直すために林檎飴を購入し、手渡してやれば幾分か和泉の機嫌も直りつつあったのだった。
「美味しいか?」
「まあまあ、林檎飴って感じ」
「ちょっとちょーだい」
「……キスしたら怒るよ」
「しねえよ、ほら」
ん、と口を近づけてくる吉原に、仕様がないといった様子の和泉は林檎飴を差し出した。
ペロリと吉原の舌が林檎飴を舐め上げた。
ほぼ砂糖で覆われているようなものだ。甘ったるい味が口腔に広がったが、甘党の吉原には丁度良かった。
そのままの流れで、林檎飴を分け合うように食べる二人。
次第に周りの視線にも慣れてくる。
手を繋ぎながら林檎飴を分け合う姿はさぞや可笑しいものだろう。
しかし気にも留めないといった様子の吉原はエスカレートすると、嫌がる和泉を腕に収めたり、寄りかかったりと、思う存分戯れを楽しんでいた。
そんな折、ドンとした衝撃が和泉の身体を襲った。
誰かに抱きつかれる感触。
一瞬悲鳴をあげそうになったが、ふわりと香る嗅ぎなれた香りに溜め息を吐いた。
「兄貴……やめてよ、急に驚くでしょ!」
「蓮ちゃーん可愛いな! 浴衣姿! 萌え!」
「もー鬱陶しい! 離して!」
和泉に抱きついてきたのは凛。
和泉の兄である。
ジャラジャラとしたアクセサリーに、ライオンのようなヘアセット。
浴衣だけが和風だ。
凛に抱きつかれた所為で離された手が、少し寂しげに凛の腕を掴む。
キッと睨みあげてみても、凛はびくともしなかった。
そんな和泉に助け舟でもある望月が目の前に現れる。
どうやら今年は二人できているようだ。
毎年三人できていた故に少し申し訳なさを感じたものの、望月も望月で楽しんでいるようだったので安心した。
和泉は苦笑を零している望月に、SOSを送ると手をじたばたとさせた。
「ちょっと〜! 柚斗、兄貴と一緒なの? 言ってよ〜」
「まあ、成り行きでな。今年はお前が参加しないっつーから、こうなったんだよ。あ、別に責めてる訳じゃねーよ?」
「わかってるけど……もう! 兄貴! 暑い!」
じたばたと腕を動かしてみるも、凛はびくともしない。
林檎飴は吉原の手に渡っているから無事だが、凛がとてつもなく邪魔だ。
決して凛が嫌な訳ではない。
会うのが久しぶりな分、少し嬉しい気持ちもあるが如何せん今はデート中だ。
凛に強く出られない吉原は見ているだけ。
無理に引き離そうと和泉が手を出す前に、望月が凛の身体を掴み、引き離してくれた。
「凛さん、蓮明日帰ってくるんだから今日は大人しくして」
「柚斗! お前は俺を邪魔するのかっ!」
「芝居調に言っても無駄。吉原先輩と和泉はデート中。俺たちはお邪魔虫。つー訳でほら、蓮、行け」
「あ、ありがとう! 柚斗、また明日ね! 来年は四人で見ようね!」
「おう。楽しみにしてる」
気を使ってくれた望月に感謝した和泉は、再び差し出しだされた吉原の手を握ると、凛たちから離れた。
暫く見ない内に凛の扱い方がうまくなってきているようだ。
和泉は関心しながら、後ろを振り返った。
それまで黙って見ていた吉原が、急に口を開く。
声色はどこか不機嫌に感じとれた。
「……つーか明日ってなに」
「あれ? 言ってなかった? 明日から暫く実家帰るの」
「は? 聞いてねーし」
「よっしーと一緒にいたらイベント行けないでしょ? だから実家に帰るの」
「オレん家から行けば良いじゃん」
「やだよ。なんだかんだ言って行かせてくれなかったでしょ」
「……だって折角一緒にいるんだし」
「そういうこと。直ぐ戻るし、ちょっとだけ自由にさせて」
「……ほんとに直ぐ帰ってこいよ」
渋々だが納得してくれたようだ。
吉原に承諾をもらうと、和泉はほっとした。
実際は直ぐに帰る予定などないのだが、こう言わなければ吉原は行かせてくれない。
幸い実家同士そんなに距離が離れていないので、会おうと思えばいつでも会えるのだ。
ここは我慢してもらおう。
二人は林檎飴を食しながら、花火の時間までぶらぶらと歩いていたのだった。
ヒュ〜という花火のあがる音。
次いでドン! という大きな音が辺りに響いた。
本日の目玉でもある花火が夜空を飾り、空は色とりどりに変化する。
和泉と花火を見るのは昨年の冬以来だ。
懐かしさに思いを馳せながら、人が密集する土手で二人は花火を堪能した。
どこもかしこもカップルだらけ。
吉原と和泉もそうなのだが、少々居心地が悪い。
それでもそこから動かずに、花火を見ていれば和泉が小さく声をあげた。
「……どうした?」
意識が花火から和泉に移る。
吉原よりも低い位置で、和泉は少し泣きそうな表情を浮かべると俯いてしまった。
握っていた手に力を入れ、顔を覗き込む吉原。
観念したように、息を吐くと渋々と和泉は言葉を紡いだ。
「……足、痛くて」
「ああ、下駄慣れてないのか? まあオレも慣れてねーけど」
「……我慢してたんだけど……そしたら切れた」
「切れた?」
その物言いに首を傾げた吉原が和泉の足元を覗き込めば、見事鼻緒が切れてしまっていた。
暗がりで良く見ることができないが、心なしか切れた場所が赤くなっているようにも見える。
仕方ない、といった素振りを見せ、溜め息を吐けば和泉がびくりと反応した。
「……ほら、しゃーねーからおんぶしてやる」
「え、い、いいよ! そんなの……」
「うっせー。つべこべ言わず乗れ。花火は歩きながらでも見れるだろ。ほら、人がごちゃごちゃする前に移動すんぞ」
和泉に背中を向け、しゃがむ吉原。
鼻緒が切れた今、どうすることもできない。
裸足で歩くのには少々危険な道だ。
和泉は観念をすると、浴衣の裾を捲り上げ、吉原の背中に身体を預けた。
吉原は落ちないようにしっかりと和泉を抱えると、足早に土手から移動をし始めた。
周りにいる人はみな花火に夢中で吉原たちには目もくれない。
だが恥ずかしいのだろうか、和泉は吉原の首に顔を埋めたままあげようとはしなかった。
先ほどまで響いていた二つの下駄の音も、今は一つだ。
濃紺を飾る極彩色に照らされながら、二人は近くにある公園に向かう。
交わす言葉なく、ただ黙々と歩き続ける吉原に、和泉は知らずの内に力を込めていたのだった。
「大丈夫か?」
公園につくやいなや、和泉をベンチに座らせると吉原はハンカチを濡らし、和泉の足に当てた。
鼻緒が切れていただけではなく、少し熱を持っていたそこ。
慣れない下駄で足を痛めたのだろう。
肌に触れるひんやりとした感触に、和泉はひくりと足を引くと頷いた。
「……平気」
「そ、ま、ちょっと休憩していこうぜ。帰りはタクシー呼ぶか」
「……ごめんね」
「良いって、な? 祭り楽しめたんだから気にすんな」
花火の音は絶え間なく聞こえてくるのに、ここではあまり花火を見ることができない。
屋台が並ぶ場所からいくばくか離れた場所に立っている公園。
別名森の公園だ。
その名の通り背の高い木々に囲まれるようにして存在している公園は、森の中のようだった。
故に花火を見ることが少々困難だ。
だからこの場所には人影すらなく、ここにいるのは吉原と和泉だけだった。
そんな森の公園の奥に隠れるようにして置いてあるベンチ。
そこに和泉は座っている。
その前には跪くようにして和泉の足に濡れたハンカチを当てている吉原。
煩いはずなのに、和泉の耳につくのはどきどきと煩い心臓の音だった。
「……蓮?」
見上げられる感覚。
身長の低い和泉にとっては新鮮だ。
緊張した面持ちで視線を泳がせる和泉に、吉原は良からぬことを思いついたのか、人の悪い笑みを浮かべた。
「……浴衣、着崩れてんな?」
おんぶをしてもらっていた所為で、和泉の浴衣の裾は広がっている。
そこに目をつけたのか、吉原はするりと手を忍び込ませると、太ももを撫ぜた。
急な行動についていくことができず、瞠目させる和泉を良いことに、吉原の手はエスカレートすると、胸元にも手を侵入させた。
「ちょ、っ……ぁ! やっ、やだ……!」
柔らかかった突起を摘まれ、くにくにと刺激される。
吉原と身体を繋げるようになって半年と少し。
良い感じに吉原に開発されつつある和泉は、少しの刺激でも反応するようになっていた。
大好きな吉原の手が、和泉の身体を這い回る。
夏の暑さでしっとりと汗ばんでいた肌が、別の意味でも汗ばんできた。
「ゃ、あ……っ! こ、こっ、外っ……!」
「最後までしねーよ」
「そ、ゆ、問題っ、じゃ……んん!」
ぷっくりと立ち上がった突起。
固くなったそれを解すように、吉原の指先が弄くりまわす。
触れば触るほど固くなる突起が、存在を主張している。
和泉は唇を噛み締めると、吉原から与えられる快感に耐えた。
緩い刺激であろうとも、突起を弄られては身体が言うことを聞かない。
吉原の指がそこをぐりぐりと弄るたびに、和泉の身体は大袈裟に跳ねるのだ。
びりびりとした甘い電流。
息も絶え絶えになり、吉原の手から逃げたいのに前のめりになってしまう。
そんな和泉を良いことに、吉原の行動はエスカレートするばかりだ。
「ぁ、あ……っン! よっ、しっ……やぁっ!」
「よっしーじゃねーだろ? ほら、教えただろ」
「りゅ、せ……」
「そ、いーこ」
和泉の身体を撫ぜくり回していた手が引く。
そのまま頭を撫ぜられると、抱きしめられた。
ふわりと香る吉原の匂いにうっとりするのもほんの数秒。
吉原は和泉を抱き抱えると、ベンチへと座り、和泉を己の膝の上に座らせた。
向かい合わせになった体勢。
背のないベンチだからこそ、できることだった。
「……よっし?」
「可愛いな、お前」
「……は、はあ?」
「悪戯したくなる」
ちゅ、と軽く唇にキスをされ、再び身体を手が這い回った。
乱れた浴衣の裾から手が入り、今度は太ももではなく中心を握られた。
既に少し反応しつつあるそこは吉原の手が触れた途端、ぐちゅりという音をさせたのだ。
なんだかんだいっても一番敏感な場所だ。
直接握られては抗う力さえ出せない。
ひくんと喉を仰け反らせると、吉原の肩を掴む手に力が入った。
「ぁ、あん! だ、だ、めっ! こっこ……そ、とっ!」
「だから最後までしねえって」
「だからっ、そ、ゆっ……問題じゃ、な……!」
ぎゅ、と握られる中心。
ぬるついたそれを伸ばすように上下に動かされ、湿った音がなった。
はっはっと息を切らせ、快感に耐える和泉。
もはや羞恥など感じている余裕もなかった。
人気がいない公園。
その片隅で睦み合うように和泉の身体を弄る吉原。
一人熱くなっている和泉の身体は汗ばみ、雫となった粒がぽたりと落ちた。
「ふ、ん……っ! ア、ァ……あん!」
べとべとに濡れた鈴口をぐりぐりと押され、汗が伝う首筋に舌が這う。
赤く熟れ過ぎた突起をきつく摘まれれば、和泉はがくがくと震えた。
脳内が徐々に白む。
極限までに高められた身体は、ぎりぎりのところで留まっている。
涼しげな顔をして笑っている吉原の首に手を回すと、耐えるように強く抱きしめた。
「ぁ、あ……いっちゃ、う! いくっ!」
「イって良いぜ」
「りゅ、せ……っ、ぁ、あ……ちゅうして……っ!」
キスを強請る和泉に、吉原は濃厚な口付けを送ると、絶頂に連れていくように刺激する手のスピードを速めた。
ぐちぐちとなる音。
和泉の中心が限界にまで硬くなると、ぶるりと震え爆ぜた。
とろりと零れだすのは和泉が吐き出した白濁。
唇を離せば、とろんとした瞳が吉原の目に映った。
「……気持ち良かったか?」
うっとりとした表情の和泉だったが、次第に自我を取り戻したのか、一気に頬が赤く染まる。
覗き込めばキッと睨まれ、頬を抓られた。
「ばかっ! ここ外なのにっ! 最低!」
「いはいはほ」
「なに言ってるかわかんないし!」
吉原の頬を抓る和泉の手を離し、吉原は再度口を開いた。
「明日から離れ離れになるんだし、良いじゃん。寂しいし……お前は寂しくねーの?」
「そ、そりゃ……さ、寂しい、けど……そういう問題じゃないだろ!」
「可愛かった。やっぱ浴衣は良いよな」
「もう! 人の話聞いてんの!?」
「最後までしたら駄目か?」
「駄目に決まってるでしょ! 何度も言うけどここ外! 信じらんないっ」
ぎゃあぎゃあと口煩く喚く和泉を宥めながら、吉原は手に残る残滓をハンカチで拭き取った。
文句ばかり言うけれど、膝の上からは退こうとしない和泉を見てほっと心温かくなるのも確か。
吉原の肩を押しながら、ぼかすかと殴ってくる和泉の手を握り、ぐっと引き寄せた。
「……なあ? オレのも反応してるんだけど?」
「……え?」
「責任とってくれるんだろ?」
「……え、ええ……そ、そんなの……」
「舐めてよ。ほら、こんなになってる」
和泉の手を己の中心に持っていく。
硬くなった中心に指先が触れれば、和泉はカアアと頬を赤らめさせた。
おずおずといった風に吉原を窺う瞳。
首を横に振ってやれば、泣きそうに顔が歪んだ。
「こ、こで……?」
「そ、ここで」
「……む、むりだよ」
「れーん。お願い」
「……よ、よっし」
「ん? ほら、舐めて」
耳元を擽り、催促するようにこめかみに唇を落とした。
最後まで渋っていた和泉だったが、吉原があまりにしつこくお願いをするので諦めたように小さく頷く。
吉原の膝から降り、地面に跪く。
きっちりと着込んだ浴衣の裾を捲り、たくし上げれば存在を主張するようにボクサーパンツを押し上げる吉原自身が見えた。
それにごくり、と喉を鳴らし見上げる。
和泉を見下げる吉原は、余裕綽々の笑みを浮かべていた。
「教えただろ? 舐め方」
「……う、ん」
ボクサーパンツをずらし、吉原自身を取り出せば勢い良く飛び出してきた。
もう既に限界が近いのかがちがちに硬い自身。
てらてらと濡れる先端に唇を寄せれば、ふるりとそれが震えた。
先端を覆うように口腔に招きいれ、竿はしっかりと手で握る。
徐々に刺激を与えてやれば、じわりと滲む先端。
苦味をもった液が和泉の口腔に広がり、その慣れない味に眉を顰めた。
何度か吉原自身を咥えたことがあるが、未だに慣れることがない。
あまり積極的に行動をおこさない和泉であったが、吉原が望むのならばこうすることも嫌ではなかった。
だが場所は考えてほしいものだ。
苦しげに息を漏らしながら、和泉はそんなことを考えていた。
「……集中してんの?」
「ふ、んんっ」
吉原は和泉の後頭部を抑えると、がっと喉奥に押さえ込んだ。
嘔吐く和泉にお構いなしといった風に腰を動かせば、和泉の目尻に溜まった涙がぽろりと零れる。
小さく響く水音。
吉原の荒い息遣いと和泉の嘔吐く声だけが公園に存在する。
「れ、ん」
文句を言ってやろうと思っていたものの、吉原が愛おし気に名前を呼ぶものだから引っ込んでしまう。
口腔を無理に犯され、苦しさが増す。
耐え切れなくなり、引こうとするが呆気なく押さえ込まれてしまい逆戻りだ。
「最高、だな……」
満足そうに息を吐いた吉原。
腰を動かすスピードをあげ、ラストスパートにかかる。
もはや吉原にされるがままの和泉はなるべく口を窄めるようにして、爆ぜるのをひたすら待った。
吉原自身が口から抜かれる。
喉を犯していたものがなくなれば、呼吸も楽になった。
はふ、と息を吐いた和泉に吉原はなんの躊躇いもなく顔に白濁を飛ばしたのだった。
「ん、……っ、あー……わり、かけたわ」
ご免といったポーズをとる吉原。
そんな態度をとっているが、絶対に確信犯である。
いそいそと出しっぱなしのものを仕舞いこみ、手で顔を仰ぎだした吉原に和泉はぶちりと切れた。
「さ、最低! 顔にかけるってどういうこと!? 第一常識ないんじゃない!? こんなとこでするなんてほんとありえないし!」
「わ、悪かったって……蓮が可愛いから悪戯したくなっただけだろ」
「可愛いとか可愛くないとか関係ないし! もう馬鹿馬鹿! 最低!」
「機嫌直せって、な?」
「触らないでよ! けだもの!」
和泉の顔を拭こうとハンカチを向けてくる吉原の手を払いのけると、ハンカチだけを奪った。
それで顔を拭き、吉原の白濁を取り去る。
さっぱりとした視界の先には申し訳なさそうに肩を落とす吉原。
犬だったらしょんぼりと耳が垂れ下がっているだろう。
だがここで許せるべき行動ではないのだ。
先ほどの吉原は。
和泉は憤慨している気持ちをなんとか宥めると吉原にハンカチを投げつけ、鼻緒が切れた下駄を持った。
「もう明日帰ろうと思ってたけど今日帰る! 夏休みいっぱい実家にいるから! 次会うのは新学期だね! さようなら!」
「ま、待てよ! 悪かったって、ごめん……。帰るなんて言うなよ」
「知らない。なに言っても無駄。無意味! 無価値!」
「……ごめん」
頭を下げ、本当に反省している様子の吉原だったがまだ許さない。
和泉はそっぽを向くと、片方は裸足のまま、公園を出るために歩き出した。
慌てて和泉を追いかける吉原の足音が聞こえる。
抱きしめようと伸ばされる手も。
それを拒絶し、なにも言わずまた足を進めれば、強引に抱きしめてくる腕が前に回った。
「蓮、ほんと悪かった。怒らそうと思ってした訳じゃねーし……」
「知らない」
「……ごめん、な? なんでもするから、……帰るなんて言うな。お前がいないと寂しい」
「……」
「蓮……ごめん……ほんとに反省してる」
「……もー、仕方ないな〜。ほんとに反省してる?」
「うん、してる」
「今日エッチしないよ? それでも良いの?」
「エッチ目的じゃねーよ。一緒にいられるだけで良い」
その言葉に少しきゅんと胸をならしてしまった和泉は、ここで吉原を許すことにした。
もちろん最初から実家に帰るつもりなどなかったが、吉原を少し懲らしめたかっただけなのである。
反省をしているようだし、仕方ない。
和泉の腹部と肩に回された腕にそっと手を添えると、吉原に見られないよう微笑んだ。
「じゃあ帰ろっか。……一緒に」
つい、と横を向けば嬉しそうに頷く吉原。
和泉の目にとても可愛く映って見えた。
鼻緒が切れて歩けない和泉を吉原は再度おんぶすると、タクシーが走っている場所までゆっくりと歩く。
ちらほら帰っていく人の群れ。
二人がいちゃいちゃとしている間に花火は終わったようだ。
まともに花火すら見られなかったが、これはこれで楽しい思い出になった。
ふんふんと嬉々として鼻歌を口ずさむ吉原。
その後頭部に和泉は擦り寄ると、吉原にわからないよう甘えてみた。
吉原と過ごす二度目の夏。
去年より、今年。
もっと吉原を好きになった。
きっと来年もこうして花火を一緒に見られると良い。
今年より来年。
もっと好きになれることを願いながら、和泉は思い出を胸に刻んだのだった。