Vt.企画エロ祭★蓮の場合
 真面目な話、寂しかっただけである。
 お互い大学生になってからというものの多忙を極め、なかなか一緒にいる時間を取れずにいた。吉原からの同棲の誘いを断ってしまった手前今更一緒にいたいともいえずにすれ違いの日々ばかり。
 吉原が大学の傍らでし始めた仕事の関係で遠くへ行ってしまい、ここ数週間全く顔さえ見られない状況だった。
 性欲をはっきりと認識する前に吉原と身体を重ね、欲が堪れば繋ぎ合うことで解消してきた。だからだろうか、独りにされてしまうとどうやって処理をして良いのか困ってしまうほど、和泉は吉原に依存していたのである。
「うう……」
 耳に残る吉原の声が煩い。先程まで電話していた所為か、未だに耳元で吉原が喋っているような気がして、和泉は堪らなくなっていた。
 正直物凄く溜まっていたのだ。和泉もなにも知らなかった初心の頃とは違い、数段大人になった。十代後半ともなれば性欲の上限すら見えず、吉原を思うだけで身体が火照っていく。
 ベッドでもぞもぞと体勢を変えて頭で意味のない数式を羅列してみても、一度ついてしまった火はなかなか消えてはくれず、次第にはむくりと勃起し始めた性器に諦めさえ覚えていた。
 自慰をしたことがない訳ではない。男なのだから自慰くらい当たり前だ。あまりにも触れていなかったため、身体が解放を求めているだけ。そう、生理現象。可笑しくない。普通のこと。
 誰に言う訳でもなく和泉は心の中で言い訳をすると、ベッドサイドに置いてある灰皿を引き寄せ、吉原が置き忘れた煙草に火をつけた。
 ジジッ、という音を立てて燃え始める煙草。緩やかな煙が舞い、煙草独特の香りがしてきたことを確認するとそれを灰皿に置いてベッドに寝転んだ。
 目を瞑れば直ぐそこに吉原がいるようである。
 知らずの内に燻り始めた和泉の欲望の種は大きくなり、そろそろと手を動かすと自慰をすることに決めた。
「ン、っ……」
 ズボンをずらし、少し硬くなった性器をパンツの上からそうと撫ぜる。ぴくりと反応したのを合図に、いつも吉原がするように焦らしながら輪郭を指先で象り少しずつに興奮を高めていった。
 じわりと先走りがパンツに染みを作るのがわかる。直に触れたい気持ちをぐっと抑え、パンツの上からゆるゆるとなぞるだけ。
 雰囲気を出すためにわざと漏らしていた声も次第に鼻にかかったかのような甘い声に変わり、いつしか自然と漏れるようになっていた。
 ティシャツの上から存在を主張し始めた突起に触れる。じん、と疼いたそこを少々強めに摘んでみれば、びくりと下肢に繋がる快楽。
「っ、く……ン」
 いつも吉原はどうしていただろうか。ティシャツの上から舌を這わし、軽く歯を立てていた。和泉が嫌がるように頭を振ればたしなめるように強く吸われる。
 想像しただけでじわりと滲む先端。和泉は堪らず、指を唾液で濡らすとティシャツの上から擦り付けた。
 濡れた場所が外気に触れてひんやりとする。だが指の腹で強く押し潰せば、じんじんと疼き熱を持ったかのように熱くなった。
「は、ァ……っ、あ」
 ふやりと柔らかかった突起も和泉の指が刺激を与える度にぷくりと立ち上がり大きくなる。芯を持ち始めたそこがはっきりとした硬さになると、突起を押し潰そうとする指先を跳ねつけるかのように存在を主張し始めた。
 ぐりっと潰す感覚に性器がきゅうと震える。思わず足を閉じて息を詰めた和泉はとうとう自分で焦らすのに我慢できなくなると、ティシャツを捲り上げ直に触れた。
 摘めるほどに成長した突起を親指と人差し指でぐりぐりと左右に擦りながら動かせば、駆けるような愉悦を齎してくれる。夢中になって押し潰し摘み引っ張りながら時折爪を立て、吉原がするように痛みを与えればびくんと身体が撓った。
「あ、ぁ、あぁ……っ」
 妄想の中では自慰に耽る和泉を意地悪な言葉で責める吉原がいる。独りでして愉しいの? とか、やらしいね、とか、和泉が恥ずかしがる言葉ばかりを吐いて和泉の熱を上げる吉原の姿。
 冷静になれば身悶えるほど恥ずかしい自慰行為なのだが、熱に浮かされた状態では現実と妄想の区別もつかない。
 まるでそこに吉原がいて、自慰に夢中になる和泉をじいと見つめているような錯覚にさせるのだ。
「ぁ、あ、りゅ、せ……」
 全身の神経が過敏になる。身体中熱の塊になったかのようだ。
 左手で突起を捏ねくり回しながら、右手はゆっくりと下降させていき、臍の周りをぐるりと描くよう指先でなぞる。そのまま更に下げるとパンツを押し上げている性器に触れた。
 足に引っかかっているズボンも、中途半端なパンツも煩わしい。思い切ってそれらを脱ぐと、外気に晒された下肢がすうすうと冷えたような気もしたが、直ぐに熱を取り戻すと熱くなった。
 焦らしていた所為か汗でじわりと滲んだ肌。べったりと張り付いたティシャツが敏感になった肌に擦れて、それすら今の和泉には刺激にしかならない。
「ん、ンン……ふ、う」
 糸を引くほどに濡れそぼった先端を指先で掬うよう触れれば、ぬるついた感触がした。おそるおそる伸ばした指先で竿を握り締めれば、にちゃりという音を立てる。
「くう……ッ!」
 待ちに待った愉悦に身体が撓る。喉元を仰け反らして激しいほどの快楽に唇を噛み締めると、そのまま激しく上下に手を動かした。
 ぬちぬちといやらしい音を立てて硬さを増していく性器。吉原がするように先端を爪先で弄れば、ぴりぴりとした微かな痛みと共に激しいほどの痺れが身体を襲った。
 先端を掌全体で覆い、緩く握り締める。くちくちと音をわざと立たせながら括れを親指で擦り、小指で先端の溝を抉るように擦った。
 酷く甘ったるい喘ぎが部屋に響き、絶え間なく吐く息は熱い。足先がぴんと張り詰め一瞬いきかけた絶頂にストップをかけるよう指で作った輪で根元を戒めると、唇を強く噛んだ。
 なにかが物足りない。
 その正体をわかっていた和泉は突起を弄くり回していた指を口腔へと持っていくと、ふるりと震えた唇をなぞりそのまま誘われるように口の中へと引き入れた。
「は、ふ」
 人差し指と中指で激しく出し入れをする。熱くなった舌を指に絡め、吉原がしてくれるよう上顎を撫ぜたり歯列をなぞったりする。
 吉原が与えてくれる深いキスとは程遠いものだけれど、それでも妄想を掻き集めれば吉原にされているような錯覚にさせて和泉は堪らなくなった。
 涙目になって嫌がる和泉を押さえ込み、激しく口内を貪られる。下肢はどろどろに解れており、放てないまま解放を待った性器が震える。それでも吉原は和泉を焦らすことをやめない。
 吉原とのセックスをなぞるような自慰に、劣情を掻き立てられている。和泉は唾液で濡れた指先を引き抜くと、てらてらと光るそれを躊躇いもなく性器の奥へと忍ばせた。
「っ、う、……や……」
 きゅうっと締まる後孔を指先で軽くノックする。吉原に慣らされたお陰でここの愉悦に溺れきっていた和泉は、ここを弄られないと満足できないようになっていた。
 吉原の熱く滾った性器が中に入ればどんな快楽を齎してくれるかを身体で覚えていた和泉は、想像だけでも達してしまいそうになる。
 吉原の性器の出っ張りが前立腺をごりごりと擦りながら、焦らすようゆっくりと抽挿を繰り返す。ぎりぎりまで引き抜かれたそれを最奥まで一気に突き立てられれば脳天まで届くほどの刺激を与えてくれる。
 吉原のものがほしい。堪らなくなって我慢が効かなくなった和泉はゆるりとなぞるだけだった指先を入り口へと持っていくと、ひくひくと収縮を繰り返すそこにゆっくりと突き入れた。
「は、ぁ、あ……」
 思ったより痛みは少ない。蕩けるように熱くなった内壁が和泉の指を包み込み、まるで刺激を待っていたかのようにぎゅうぎゅうと締め付けていた。
 ず、ず、と奥に指を突っ込み、引くように下げる。その繰り返しだけであったが和泉には十分の刺激であった。
 食いちぎらんばかりに内壁が指を押し上げ、絡みついてくる。唾液で滑りを良くさせた和泉の指はそれに逆らうようにスピードを上げると、熟れたような肉の壁を擦りながら中を犯した。
「ぁ、あっ、りゅっせ……」
 くちくちと鳴る後孔がいやらしいほどに浅ましい。吉原を欲しがって収縮するさまなど発情期の雌犬のようだ。
 誰に見られる訳でもないのに羞恥にかられた和泉は下唇が白くなるほど噛み締めると、吐く息に制限をかけた。それが鼻にかかったような甘えを含んだ声を出す理由になり、ますます興奮を高める。
 ベッドで独り吉原を思いながら自慰行為に耽る。それが和泉の興奮剤。
 肉の壁に存在している少し膨らんだ場所をわざと避け、周りをぐるりとなぞる。きゅうと締まったそこは刺激を待ち侘びて、和泉の指に催促をかけた。
 我慢がきかなくなってそっと押し上げるように前立腺に触れてみれば、びりびりとした甘い電流が頭の先から足の先にかかって痺れをもたらした。
「あ、あああぁ……っ」
 ひくん、と反った喉。背中が弓なりに撓って、ギンギンに硬くなった性器が先走りをぽたりと零しながら和泉の腹に零れた。
 既に息も絶え絶えになっていた和泉は汗の垂れた額をシーツに押し付けるよう擦ると、絶頂を目指してひたすらに指を動かした。
 吉原に与えられた愉悦は身体が一番覚えている。どこに触れれば気持ち良いか、どんな風に達すれば脳内が白むのか、全て吉原に教わったことだ。
 中だけの刺激で達するまで時間がかかったが、初めて中で達することができたときの快感は今思い出しただけでも先走りが溢れ出るほどの快楽だった。
 極力性器を触らないように伸びた指先でシーツを掴むと、右手で一心不乱に後孔を慰める。
 前立腺を集中的に攻めながら、脳内に描くのは意地悪な顔をして口角を上げている吉原の姿。独り身悶える和泉を見ているだけの吉原は触れようともせず、ねめつけるだけ。
「ぁ、っん! ふ、ぁ、あっ」
 浮つく腰にきゅっと縮こまる足先。はあはあと喘ぎ混じった吐息が耳元に大きく響いて、それを隠すようシーツに顔を押し付ければそれがくぐもった喘ぎに変わる。それがまた和泉の興奮を助長させるだけにしかならない。
 びくびくと跳ねる身体が限界に近いことを教えてくれた。スピードを増した指先に、限界まで張り詰めた性器。とろとろに溢れ出た先走りがぽたぽた零れて腹に落ちる。
「あ、ぁっ、もっ……いっく、う……」
 爪先で前立腺を引っかけば大袈裟なほど揺れる身体。妄想の中の吉原が耳元で、イって良いと、そう囁けば呆気ないほどに終着は直ぐそこにいた。
 ぶるりと震えた性器の先から零れ出た白濁。大きくうねった身体がシーツをずらして、足先がその上を滑る。
 一際強く指をぎゅうと締め付けたまま痙攣のような線引きをした和泉の身体は、何度かに分けて溜まっていた白濁を吐き続けると和泉の白い肌を汚すよう腹へとぼたぼた点を作ったのであった。
 後孔で達すれば大きな絶頂感を得られる代わりに、疲労感も半端ではない。たかが一回自慰をしただけだというのにぜえはあと荒い息を吐き出した和泉はそのままシーツが汚れるのを気にすることなく丸まると、ばくばくとうるさい心臓を宥めるよう深呼吸をした。
「りゅ、せ」
 達して、冷静になった脳内になると途端に襲ってくるのは後悔だ。
 吉原をオカズに使って自分を慰める。身体はすっきりとしたものの、心はすっきりとしない。吉原の匂いを嗅げるようにつけた煙草もすっかりと火を消しており、煙草の燃えカスだけが残っているだけ。
 微かに香る煙草の匂いが寂しさを募らせる。
 和泉は堪らずに枕元に置いていた携帯を手に取ると、つい先程かかってきたばかりだというのにも関わらず吉原に電話をかけた。
 何度目かのコールのうち、直ぐに出た吉原。和泉が口を開ける前に言葉を発すると、高いテンションでぺらぺらとまくしたてた。
『蓮? お前から電話なんて珍しいな。なんかあったのか? つーか丁度オレも電話しようと思ってたんだけどよ、なんか明日帰れることになったみてえだわ。あ、今日? いや、明日?』
「……明日なの、今日なの」
『今日帰れるけど、着くのが明日。朝一でお前ん家行くし! もうちょっと辛抱しとけよ』
 なんてお気楽な言葉なのだろうか。こっちは寂しくて堪らなくなって一人で自慰に耽ってまた寂しさに落ち込んでいたりするのに、吉原は能天気な声を上げるだけだ。
 無性に吉原を困らせたくなった和泉は絶頂の余韻に浸っている状態のまま、掠れた声を吐き出すと滅多に言うことのない誘いの言葉を吐いた。
「柳星、……エッチしたい」
『……は!?』
「やっぱ、独りじゃ、足りないから……早く帰ってきてね」
 絶句した吉原が電話の向こうで唾を飲み込む音が聞こえる。引き攣った喉に、咽た声。なにかを紡ごうとしている吉原の言葉を遮ると無理矢理通話を終了させた。
 そのまま、悶々として一夜を過ごせば良い。和泉が思う以上に求めてくれていないと気が済まない。
 吉原の意表をつくことに成功した和泉は、満足な気持ちで汚れたシーツに包まると独りほくそ笑んだのである。