それなりに知名度があっても、常に露出し続けなければならなかった。人々の記憶に深く刻むことは容易なことではなく、そして地道な取り組みでもある。
何故ヒーローとヒールが一緒にいるのだという疑問はさておき、今回の仕事は義神戦隊ギーレンジャーのレッドとアークモノー団の大佐のツートップの雑誌インタビューだった。
二人が揃って一緒の仕事をするのは実はそう珍しいことでもなく、TV収録などではありえなくてもラジオや紙面ならば良くあること。一緒に撮影をするというのは珍しいかもしれないが。
今回は雑誌側からの強いオファーもあってか、二人の絡み撮影をすることになっていた。本来ならば敵同士、こんなことをできる環境ではないのだがそこはご都合主義。一時休戦という題目で世界平和と世界侵略について対談形式で行なうことになっていた。
正直なんでもありだな、なんて思いつつも受けた仕事はきちんとこなすのがモットー。雨乞は控え室で進行表を見ながら大人しく待機していた。
(……いやだからって、これはねえだろ)
ちらりと横を向けば惰性的に煙草を吸いながらエロ本を読む白瀬。どうしてという疑問が浮かんではみたものの、直ぐに立ち消えて遣る瀬無さに溜め息しか吐けなかった。
特別狭いスタジオでもないのに何故だか白瀬と合同の控え室を与えられた。本来なら所属する会社が違うのだから、同じような仕事をしていようともわけるべきだ。だがそれを言うものは誰一人としておらず、疑問にすら思わないままこの部屋に通された。
どちらにせよそれほど嫌と言う訳でもないから良い。雨乞はお茶を引き寄せて啜った。
「おっそいね〜これ今日中に復活するの〜?」
「……さあ。どうだろ、っていうか白瀬さんそれ可笑しくねえ?」
「どうでも良い〜雨乞さんと一緒に仕事するの久々だしい、ちょおテンションマックスだもんね、俺」
「家で会ってるだろ、馬鹿」
ばっちりと戦隊服に着替えてレッドになりきっているというのにエロ本を読んでいる姿がミスマッチだ。雨乞とて大佐服を着てきちんと居座っているのだから可笑しな光景ではあるのだが。
何故白瀬と雨乞がメイクも衣装もばっちりでこの控え室に仲良く二人揃ってのんびりしているのかというと、機材トラブルに見舞われて撮影が一時中断してしまっていたからだ。
今から本番というときにカメラの調子が可笑しいから待っていてくれと言われ一時間、なかなか進行しない状況に世話役が取り次ぎに行って三十分、音沙汰もないまま時間が掛かるというスタッフの報告が齎された。
日を改めた方が良いのではと思いがちだが大佐とレッドを揃えてのスケジュールなどなかなか作れる訳もなく、おしていても強硬手段を取るしかない。
「あー……、まだ時間掛かるっぽい」
「なにそれー勘なの?」
「いや、世話役からメールきた。急いでカメラの替え取りに行くらしいからあと一時間ちょっとだって」
「あーカメラの不備ね〜へえ〜、メイク取りたい早く〜」
「どうせ一時間後にメイク直しするのにな。衣装も窮屈だしさ」
「ねえ〜、でも大佐の雨乞さんとこんな話できるの新鮮〜! 大佐モードじゃないんだね〜」
「白瀬さんと一緒にいるのに作っても仕様がねえだろ」
鬱陶しげに髪を流した雨乞の動作に、白瀬は口を閉じるとそれをじいと見つめた。
今の雨乞の格好は白瀬の目に痛く毒だった。SMボンテージを匂わせる黒のぴったりとした皮のショーパンに、膝までのブーツ。上半身も露出が多く、ファーや華美な装飾で隠れてはいるもののチラチラ覗く胸元だとか割れた腹筋の肌の白さにぐっとくる。
(あーやっべえなあ……ムラムラしてきちゃったし〜う〜)
大佐の格好の雨乞は刺激が強過ぎた。綺麗に見せるよう施された厚化粧も色気を増幅させているし、付けられた髪のエクステも引っ張って喘がせたい代物なのだ。
とにもかくにも今の雨乞は酷く色っぽい。いつだって色気はあったものの、その比でもない。
白瀬とてそれなりにメイクや衣装で着飾ってはいても、所詮ヒーローサイドなのでわかりやすいものだ。ヒールサイドの淫靡な雰囲気には到底及ばない。
撮影開始まで一時間と少し、誰もこないし仕事もない。最近雨乞に触れることがなくて溜まっていた白瀬には、絶好のチャンスと思えた。
「よし、決めた」
エロ本を閉じて立ち上がった白瀬に、雨乞が訝しげな目を向けてくる。だが決意した白瀬の意思は固かった。
本当に限界だったのだ。雨乞と同棲こそしているもののお互いの仕事が忙しいためにそこまで触れられる機会もなければ、触れ合う時間もない。特に最近は白瀬の仕事が立て込んでいたので家にすら帰れる時間も少なかった。
この機会を逃したらまた次はいつになるかわからない。だったら実行に移すしかない。ここがどこだとか、仕事の最中とか関係なかった。もうやると決めたらやるのだ。
白瀬は雨乞の手を引き立たせると、壁側まで追い詰めて後ろからぎゅっと抱き締めた。
「おっ、おい! なにすんだよ!」
「なにって〜ナニ? 野暮なこと聞かないでよ〜、……わかってるでしょお?」
「は、あ!? ふざけんなっ、こんなとこでてめえ正気かよ! なに考えてんだよ!」
「だって〜ムラムラしちゃったんだもん。イチ大佐ちょおえっちいからさ〜」
抱きすくめて、後ろから首筋に舌を這わせる。大袈裟に跳ねた雨乞の身体が愛おしい。正面から顔を見て虐めたかったが、後ろからの体勢の方がいろいろと都合が良かったので白瀬はそのまま舌をゆっくりとおろすと首の付け根にきつく吸い付いた。
「ン、ッ……や、めろ……痕つけんなッ」
白い肌が淡く色付く。仕事面では未だ上位に立てない関係性が、この空間では逆転して優位に立てている。それが堪らなく非現実的でぞくぞくする。
あの孤高のイチ大佐を蹂躙できているという事実に興奮しているのかもしれない。
白瀬は向き出しになっている雨乞の太股に手を滑らせ、柔らかな肉の感触を楽しんだ。
「は、なせっ……てめ、っここどこだと……!」
「とか言っちゃって興奮してるんでしょお? レッドに犯される気分はどう〜? イチ大佐」
「っ、く、ぁ……ああ」
露になった耳元に歯を甘く立て、ゆっくりと舌を捩じ込む。聴覚的に刺激されるのが良いのか、それとも耳自体が弱いのか急に雨乞の抵抗が弱々しくなる。
吐く息も途切れ途切れで熱が篭る。震え出した身体を支えながら直接的ではない刺激を与え、白瀬は雨乞を追い詰めていく。
頭が固く真面目な雨乞のことだ、ここで致すなんて信じられないだろう。その不徳さにもっともっと喘げば良い。乱れれば良い。
(信じられねえ……っ)
舌のぬめった感触に身体から痺れていく。雨乞はおぼろげになる思考の中、掴むものもなく壁に爪を立てると緩く頭を振った。
息を殺せば扉の向こうからは慌しく駆け回るスタッフの声。薄壁一枚隔てただけの不安定な場所でレッドとイチ大佐がこんなことをしているなんて誰も思わないだろう。
(開けられたら最後、じゃねえ……か)
バレたらどうしよう、という恐怖感にますます身体が敏感になる。何気ない動作にも過剰に感じてしまって、下肢を熱くさせている。
不埒な動きをする白瀬の手は太股を柔らかく揉みしだくだけで中心には触れないし、唇は変わらずに耳を蹂躙し続けるだけ。もっと強い刺激がほしいと望む欲望と、これ以上触れてほしくない良心が鬩ぎ合ってどうしようもなくなる。
「イチ大佐、ねえ、おっきくなってるのわかる?」
「ン、ぁ、ああ……っ!」
白瀬が腰を押し付けて自身の硬さを知らしめてくるが、雨乞とて皮の短パンを窮屈に押し上げているのだ。
なにもかもわからなくなって、雨乞は泣きそうに顔を歪めるといやいやと首を振って白瀬の手を上から握り込んだ。だけど手の動きは止まることなく、わざと際どいところばかりを刺激する。
肌が粟立ってじんじんと痺れる。掻き毟ってしまいたいほどの愉悦は優しいだけでなんの意味も持たない。煽るしかならない。理性ぎりぎりのところで一所懸命雨乞が踏ん張っているのなんて露にも知らない白瀬は、雨乞が白旗を上げるのをひたすらと待っている。
「かあいいね〜、やっぱり。すっごく虐め甲斐ある」
わざとレッドでイチ大佐を擽らないでほしい。雨乞は後ろを向くときっと睨み付けて、白瀬の手に爪を立てた。
「っ、なにすんの〜、イチ大佐反抗的〜」
「ふざけんなよっ! ここでヤるとかほんと勘弁してくれよ……むり、持たねえ……」
愉悦に流されてしまえばどんなに楽だろうか。だけど雨乞の中のイチ大佐が歯止めを掛けるのだ。仕事場で致すなんてありえないと。誰に見つかってもわからない状況で身体を委ねることは難しくて、精神的に可笑しくなってしまいそうになる。
そんな雨乞の性格を理解していたのかは定かではないが、白瀬は案外あっさりと手を引くと皮の短パンを押し上げている雨乞の性器をなぞった。
「これ、良いの? 辛くないの〜?」
「や、るより……まし、我慢する」
「イチ大佐頑固! ……でもまああれだし〜? 手は引いてあげるけど〜代わりに舐めてくれる?」
「……は?」
「だってほんと限界なんだもん。ここで俺に犯されるかあ、口でするのかあ、どっちが良い? 決めて」
「……あー……くっそ、わかったよ。……口でするから、も、さわんな」
緩くなぞる白瀬の手を振りほどいた雨乞は、悦で蕩け切った身体をしっかりと持ち直した。
立っているのも正直なところしんどい。身体は快楽を欲しがってじんじんと疼くし、中途半端に煽られた所為か吐く吐息にさえ感じてしまう。
ねめつけるような白瀬の視線に射抜かれて、ぞくぞくと背筋に走るなにかに雨乞は知らずの内に跪いていた。
(……そんな欲情しきった目で見るんじゃねえよ)
恍惚とさえしてしまいそうになる。ぎらぎらと肉欲に塗れた白瀬の視線に貫かれながら、雨乞は震える手でゆっくりと白瀬のズボンのファスナーをおろした。
いつもと違うそれに、興奮してしまうのも確かだ。イチ大佐のままでレッドの性器を舐めるなんて嗜虐過ぎる。
戦隊スーツを脱がしていく動作にも興奮してしまって、雨乞はぼうっと惚けたような表情で性器を取り出した。
「あつい、な」
雨乞の手の中でびくびくと震える白瀬の性器は既に堅く張り詰めて濡れそぼっている。久しい感触に白瀬も興奮しているのだろう。手を伸ばして雨乞の前髪をくしゃりと握りこんだ。
「早く咥えて? 隅々まで舐めてご奉仕してね。唾液絡ませて音立ててよ〜」
「……注文つけるな」
とか言いつつ白瀬の言う通りにしてしまうのは如何なものか。すっかりと白瀬に絆されている雨乞は白瀬に滅法弱く、そして甘かった。
根元をしっかりと握りこんで軽く上下に揺する。じわりと先走りが染み出した先端を口に含んで、歯を立てないよう奥深く咥え込むとゆっくりと顔を前後へと滑らせた。
白瀬が言った通り本当に溜まっていたのだろう。いつもより先走りの量が多い上、味が濃い。直ぐに反応をみせた性器も限界まで大きくなって、びくびくと震えているのだから。
「ん……その顔の大佐堪んねえな〜……ちょおいけないことしてる気分〜」
あやすように前髪を撫ぜ付けられる。白瀬は愉悦に染まった顔で雨乞を見下ろすと、腰をぐっと押し付けた。
白瀬の性器が雨乞の喉奥を突いて嘔吐きそうになる。雨乞は思わず顎を引くと、口から性器を出して横に咥えた。
「あ、いい〜……ね、イチ大佐……こっち見て」
「……それで呼ぶな」
「はは、仕事に差し支えるって? ほんと真面目だよね〜市くん」
「煩いな、もう黙って大人しくしてろよ」
性器を咥えて根元を舌でねっとりと舐め上げる。指先は先端を弄って、溢れ出る先張りを弄ぶようになぞった。
思えば随分と仕込まれたものだ。男性器を刺激することがあるなど一生ないと思っていたのにこのざまはなんなのだろう。
こんなことをするのは白瀬だからだ。雨乞は丹念に丁寧に白瀬が好きなところを重点的に攻め立てた。
裏筋だとか、鈴口だとか、先端の出っぱった裏だとか、探らなくても白瀬の弱いところなら把握していたし抵抗もなく刺激できるようになった。
音を立てて美味そうにしゃぶれば、白瀬がぐっと息を詰めて雨乞の髪の毛をぐしゃりと強く握る。
「い、ん……ッ」
「はあ……そう、市くんもっと舐めて。深くまでしゃぶって」
我慢がきかなくなったのか、白瀬は雨乞の前髪を乱暴に引っ張ると開いたままの口内へ性器を突っ込んだ。
苦しげに呻く雨乞など構うことなくゆっくりと腰を前後に振れば、涙目になった雨乞が睨み付けてくる。だけどそんな反抗的な目をするくせに、きちんと性器に舌を這わしているのだからとても律儀である。
苦しいだろうと理解していても、愉悦に抗うことができなかった白瀬は深く深く性器を押し込んで腰を動かした。
「ん、んっ、んん……!」
雨乞がきつそうに鳴く。首を緩く振って前髪を掴んでいる白瀬の手を剥がそうとする様子に、離してやらねばとわかっていても白瀬は敢えてそのまま口内を蹂躙し続けた。
目の前にはあのイチ大佐が跪いてレッドの性器を咥え込んでいるのだ。涙目で、好きなように甚振られて、眼福以外のなんになろう。
滅法快楽に弱い白瀬は雨乞の嫌がることや苦痛など気にも留めず、ただ絶頂へと登りつめた。
「ふ、あ、ぁつ……」
奥深くまで咥え込まされた所為か、白瀬の薄く生えた茂みが雨乞の鼻を擽った。最初は喉奥を性器で突かれる感触の方が嫌で気にもならなかったが、次第に気に掛かるようになっていた。
相変わらず遠慮もなくがつがつ顔を揺さ振られるのは苦痛でしかないが、その中で主張するように鼻がこしょばくなってきた。茂みの柔らかな感触が定期的なリズムで当たって出そうで出ない気持ちになる。
正直途中からそれどころじゃないほどむずむずして仕様がない。だけどここでくしゃみをすれば白瀬の性器を噛んでしまう。流石にそれは男として最悪の事態なので我慢しなければならない。
喉奥は苦しいし、吐き気もしてきた。くしゃみもしたい。早く終われば良い。雨乞は必死になって我慢した。
「市くん、イく……っ! は、っ……飲んで……」
ぐ、っと奥深くまで性器が押し込められた。だけど雨乞も限界だった。顔を無理に引くと口から性器を抜いて、小さなくしゃみをした。くしゅん、と場にそぐわない可愛らしい声がする。同時に白瀬の恍惚たる声がしたと思えば、顔に熱い飛沫が掛かった。
「ん、わ……っ」
慌てて目をぎゅっと瞑る。青臭い匂いのこれは精液だ。白瀬は雨乞の顔へ射精してしまった。
「あ〜市くんごめん〜顔に掛けちゃったね〜。でもすっげそそるんですけど! やっぱ堪んねえわ〜イチ大佐の顔に顔射とかちょおレアはぐれメタル〜! うっわ興奮してきた最後までヤっても良い? 良いよね? もう顔に掛けちゃったからどうせメイクし直さなきゃいけないじゃん? だったらもう全部ヤっちゃっても大丈夫だよね?」
「は、はあ!? お、おいちょ……っこら! どこ触ってんだよ! つーか顔に出すなっつっただろうが!」
「だって飲まない市くんが悪いんだもん」
「くしゃみ出そうだったんだから仕方ねえだろ! 顔拭くもん取ってこいって、触るな馬鹿!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ雨乞と白瀬。精液に塗れた顔を晒して必死に抵抗する雨乞と、そんな雨乞を押し倒して盛りのついた犬よろしくの白瀬。緩いようでデットヒートな攻防を続けていれば、タイミングが悪く部屋に入ってきた世話役がいた。
時が止まった。三者三様のリアクションを取ると、次いで叫ぶような世話役の説教が飛んでくる。
結局は控え室でセックスをするという危険極まりないことだけは回避できたものの、白瀬のとばっちりで雨乞がこってり怒られただけでなくお説教までついていらない仕事まで担わされた。最悪だ。良いことなんて、なにもない。
中途半端に煽られた熱も解消できぬまま仕事に取り掛かった雨乞は、後日色気が増しただのなんだのと囁かれたとかなんとか。欲情しきった表情は雨乞自身ですら見返せないほどに恥ずかしい。
くしゃみで助かったのか助かってないのか、もう暫く口でするのはやめよう。というより白瀬と仕事を被せるのはやめようと強く誓った。
どうのこうの言ったって白瀬に滅法弱い雨乞は、直ぐに白瀬を許してしまうのだけれど。