和泉は非常に苛々としていた。
その原因というのが目の前で同人誌を作成している凛と望月の様子であった。
想いを自覚した望月だったが、告白などする気は全くないようだ。
凛とて望月に対して新たな感情が芽生えている癖に、前となんら変わりなく、今まで通りに過ごそうとしているのが目に見えてわかる。
夏休み終了まで後少ししかない。
このままでは望月と凛は永遠に想いを秘めたままだ。
それでは余りに不憫だ。
どうにかしてやりたいと思うものの、他人が口出しできることではない。
和泉はそのジレンマに日々じりじりとストレスを溜めていた。
本来ならば和泉も吉原家に戻る予定だったのだ。
だが、こんな状況では戻れるものも戻れない。
凛と望月は通っている学校が違う。
その上、望月は全寮制だ。
大型連休でもない限り地元には戻ってこない。
つまりは、次二人が顔を合わすのは冬休みということになってしまう。
本当にこのままで良いのだろうか。
いや、良い訳がない。
和泉は凛と望月のために最後の一肌を脱ぐことにすると、急いで準備に取り掛かった。
もしこの方法で上手くいかないのであれば、もう諦めるしかない。
そういう運命だったのだ。
だがこの方向で上手くいくことができたのなら、それは大成功といえよう。
吉原家から水島デルモンテ学園に戻る予定の和泉は荷造りをすることにすると、この日のために作っておいたとある秘密兵器を取り出した。
「ふふ、夜なべした甲斐あってなんとか完成……。これなら上手くいってくれるはず」
それを大事そうに机の上に置くと、本格的に荷造りに取り掛かった。
この作戦を遂行させるためには、和泉が実家にいては都合が悪い。
ここにいない方が良いのだ。
後はこれを目立つ場所に置いといて、二人が発見してくれるのを待つしかない。
結果は望月が水島デルモンテ学園に帰ってからわかることだ。
どうか上手くいってほしい。
和泉はそれだけを祈ると、秘密兵器を持って凛の部屋へと行くのであった。
「……あ? 蓮ちゃんその荷物なに〜?」
「なにって、俺もう家出ていくし。よっしーが煩いから」
「えー!? もう帰んの!? 早くね!?」
「まあ俺にもいろいろあるの! じゃあ柚斗、俺は一足先に帰ってるね。次会うのは学園かあ……それまで元気でね!」
さり気なく秘密兵器を二人に見られないように床に置くと、和泉は立ち上がった。
数日前から寂しいなどというメールが和泉の携帯に頻繁に入るようになっていた。
もちろん送信者は吉原だ。
もう少しイベントに参加していたかった和泉だが、あまりに吉原が煩いので会いに行くことに決めたのだ。
現在の状況からいえば好都合だったのかもしれない。
二人とも和泉がいれば遠慮をするし、和泉ばかり甘やかそうとする。
それではいけない。
進展するはずもない。
善は急げ、といった風に和泉は急ぐことにすると、急な行動についてこられない二人を置いて実家を後にするのだった。
願うのは良い結果ばかり。
和泉は秘密兵器を残して、吉原家へと旅立つのであった。
そうして残された二人は台風のような和泉の行動に、ぽかんと口を開けていたのである。
「……帰っちゃった」
「……帰っちゃいましたね」
原稿をしていた手も止まり、開け放たれたままの障子の向こうを見つめた。
障子を開けたら縁側があり、その向こうには日本庭園が広がっている和泉家。
有名な茶道の家元ということもあり、和風造りの家だがそこそこの豪邸である。
そこに似つかわしくないR-20の同人誌の山の中、二人の夏休みは幕を閉じようとしている。
なんだか少し、残念でもある。
望月はすっと細められた凛の目を見て、どきりとした。
和泉という存在をなくした今、二人はほんのわずかの緊張を感じていた。
和泉が帰ってくる前に逆戻りしたかのようだ。
だがその前と違う大きな点もあった。
それは二人ともが、新たな想いを抱えてしまっている、ということだ。
もちろんお互いがお互いを想っているなど露にも知らない二人は、どことなく視線を合わせないようにすると、再度原稿にとりかかるのであった。
「……そーいやさ、夏休みも、後一週間じゃんか〜」
「あ、そうでしたっけ……」
「うん。……柚斗はさ、その、いつ戻んの?」
「えーどうするかまだ決めてないっすけど。でも三日前ぐらいには戻る、予定ですね」
「じゃああと四日ぐらいしか一緒にいられないっつーことか。寂しくなんね〜」
「……あ、はい」
眉を寄せ、目じりを下げてそう言った凛の表情が少し寂しそうに見えて、望月はつきりと胸が痛んだ。
そうして実感するのだ。
嗚呼、一週間もないのだと。
夏が過ぎれば、本当に忘れられることができるのだろうか。
望月は自分の情けなさに、悔しくなった。
想いを吐露して、振られるのは目に見えてわかっている。
だから言うつもりなどない。
この微温湯のような関係を壊したくない。
黙っていれば一生涯の関係としていられるのだ。
そう例え凛が誰と付き合おうとも、結婚しようとも、壊れることなどない。
だがそれを見ていられるのだろうか。
一過の感情だと、そう思えるのだろうか。
知らずの内に眉を下げていた望月に、凛は困ったような笑みを浮かべた。
「……どったの、柚斗。なーんか暗いけど」
「あ、いや、なんもないっす。ただ、夏ってしんみりしちゃいますよね」
「まー……そうかもな〜。つーか、あれ以来ずーっと敬語だけどいつ直してくれんの〜?」
「あー気が向いたらっすかね。やっぱこっちの方が性に合います」
「ふーん? ま、期待しないで待ってる」
ペンを置き、珈琲を啜る凛につられ、望月もペンを置くと軽く伸びをした。
少しだけ休憩をしよう。
朝からずっと机に向かっていたため、非常に肩が重い。
ごろり、と寝転んだ望月だったが、視界の端に見慣れた絵柄の同人誌を見つけて、ふ、と首を傾げた。
望月の数十cm先にある同人誌。
それはどこからどう見ても和泉の絵柄である。
だが、初めて見る表紙だ。
和泉の同人誌を網羅している望月が見たことのないそれ。
つまりはつい先日まで和泉が隠れて描いていたものなのだろう。
もしかして忘れたのだろうか、と思った望月はそれを手に取ると固まってしまった。
表紙を見れば、これは忘れものではないと直ぐわかる。
そう、表紙には自分が描かれていたのだ。
そこまでは良い。
良くある話だ。
望月の親友でもある和泉は、非常に多くの望月本を出してきた。
だが、この同人誌は明らかに故意的に作られたものだ。
だってそうだろう。
表紙に描かれている人物は自分と凛なのだから。
思わずその同人誌を片手に、固まってしまった望月の異変に気がついた凛は、腰をあげるとそろりと近寄った。
「柚斗? それなに〜? 蓮ちゃんの忘れもん?」
「あー! なんもないっす! 関係ないです! 大丈夫です!」
「は? え? なに、隠すんだよ。気になんじゃん」
「いやほんと大丈夫ですって。はい。ほんとに、はい。これは、はい」
挙動不審になった望月は慌ててその本を後ろに隠すと、わたわたと壁に逃げた。
これを見られるのは非常に不味い。
本当に不味い。
一体和泉はどんな神経でこれを描いてここに置いていったのだろうか。
とても困った親友である。
なんとか凛にばれないようにしてこれを隠さなければならない。
だが余りの挙動不審さに疑念を抱いた凛が、望月を逃がさないようにと、じりじり近寄ってくる。
まさに絶体絶命とはこのことである。
覆い被さるようにして望月を囲むと、肌に似合わずきらりと光る白い歯を見せ、にっこりと笑みを浮かべた。
「柚斗、わかってるよね〜? 俺って隠されれば隠されるほど気になんの。人間ってそういうもんでしょ?」
「……いや、ほんと、これ、蓮の悪戯っていうか、はい。いや、見ても決して気持ちの良いもんではないと言いますか、ええ。はい」
「そこまで言われたらますます気になんじゃんよ」
「ほんと! 困ります! 俺だって困ってるんですよ!? あ、決して嫌とかそういうんじゃないんですけど……ほんと、無理です!」
「ま、……諦めて?」
昔から決まっていたのだ。
年功序列。
いいや、そういうものではない。
幼馴染三人の権力の差は、決まっていたのだ。
和泉、凛、望月の順番で権力が強い。
つまりは凛に敵う相手は和泉しかいない。
しかし和泉は今ここにいない上、これは和泉が置いていった爆弾である。
ぎりぎりと見た目からは想像もできない強い力で押さえつけられた望月は、呆気なくも和泉作の同人誌を凛に奪われてしまうのであった。
切なげな声で望月が抗議するも既に遅く、凛は奪い取るやいなや同人誌をペラペラと捲りだした。
なんともいえない沈黙が辺りを支配する。
それもそうだ。
和泉は物凄く気合いを入れたようで、コピーだったがフルカラーのR-20を描いていたのだから。
「……だ、だから、困るって言ったんですよ……」
この微妙な雰囲気を打破したい思いで、望月はそう口にする。
だが想像していた凛の反応は違うもので、望月を真剣な目で見つめると、パタリとページを閉じた。
「これさ、見てどう思った?」
「見てっていうか……まだ見てないんすけど」
「じゃあほら、これ。どう思う? ねえ、柚斗?」
どんな羞恥プレーなのだろうか。
凛はハードなエロシーンを選択すると、そこを開き望月に見せてきた。
同人誌の中では汁気たっぷりで絡み合っている望月と凛。
修正などしていないし、凛自身は望月の秘部に突っ込まれている。
どうして自分が受けなのだ。
普通は逆だろう。
そう思いつつも望月はそのページを見て、体温が急激に上昇していくのがわかった。
完全に和泉の同人誌の世界であるとわかっていつつも、羨んだ気持ちが大きい。
願う立場は逆であるが、こんなこと現実では有り得ないのだ。
思わず切なげな表情になってしまった望月を、凛は見逃すことをしなかった。
そうして、とある疑問を抱いたのだ。
これはもしかしたら、そうなのだろうか。
そう思案する凛は賭けにでることにした。
同人誌を片手に再度固まってしまった望月の手首を掴むと、じいっと顔を覗き込む。
望月の頬は尋常じゃないほど赤く染まっており、その扇情的な表情に凛はぐっと息を詰めた。
「……柚斗? 顔赤いけど……?」
「え!? あ、や、やっぱ照れますね! つ、つーかほんと蓮なに考えてんだってはな、し……」
ふ、と望月を覆う影が大きくなって気がつけば二人の距離は数cmになっていた。
思わずぱちくりと瞬きをする望月に、凛は不敵に笑うとその唇を近づけたのであった。
そうなればどうなるか。
そう唇が触れ合うのである。
つまりはキスだ。
そうキスをされたのだ。
望月の唇には生暖かい唇の感触。
女の子とは違い、少し硬度のある唇だったが、望月の唇と程よくフィットしているように思えた。
そのまま舌を差し込もうとしてきた凛に望月は慌てると、その肩を押しのけた。
「は、ちょ……え? な、なにするんすか」
「なにって、わかるでしょ〜? 初めてでもないんだし?」
「た、確かに初めてじゃないっすけど」
「そうじゃなくってさ〜……んー、わりいっつーか、俺、前にキスしたことあるんだよね。柚斗と。寝込み襲ったっつーか、まー柚斗が可愛くってってのもあるんだけど〜……な!」
「えー! ちょっと待ってください。え? え? まじで整理したいんすけど……」
「まあ細かいことは良いじゃん、な? 俺は柚斗とキスしたい。柚斗は?」
「はー、え、つーか……それって」
「もちろんそれ以上もしたいし〜。側にいてほしいっつーか、まあ、……わかるだろ?」
「……な、まじっすか……」
はっきりとした物言いをしなかった凛だが、凛の言いたいことなど直ぐにわかった。
だがまさかこんなことが有り得るのだろうか。
相手は二次元の美少女が大好きな変態のノーマルである。
そんな凛に惚れた自分もあれなのだが、まさか凛まで同じような想いを抱えているとは晴天の霹靂だ。
いまいち現状を把握することができないし、実感もない望月だったが、キスをされたのだけは歴然たる事実でもあり現実でもある。
それがそういった意味を持つのなら、そういうことなのだろう。
かあっと顔が熱くなるのがいやでもわかる。
望月は頬に寄せられた凛の手に、どきどきと胸を鳴らすとこちらを愛おし気に見つめる凛を見返した。
恋を知らずに吉原と恋に落ちた和泉と違い、凛も望月も恋は何度もしてきている。
だからこそ、口で伝えなくともわかることもあるのだ。
お互いがお互いの表情の意味を汲み取り、内に秘めた想いに気がついた。
望月は開いている手で凛の頬に触れると、自らも引き寄せて唇を合わせる。
「……こういう、意味なんすよね?」
「……そうだけどさ〜、俺、主導権握られんの、嫌なんだよねえ」
「俺だって、嫌ですよ」
「……困ったなあ。ま、でも諦めて? 俺の方が上手いし〜満足させてあげる自信あるし〜なにより愛があるから!」
ぐ、と両手首を掴まれてにっこりと微笑む凛。
愛という言葉は非常に嬉しいが、望月とて容易にやられる達ではない。
これはこれからのベッドでの役割がかかっているのだ。
ここで負ける訳にはいかない。
吉原と和泉のようにお互いに体格差がある訳でもないし、経験の差がある訳でもない。
どちらとも似たような感じなのだ。
だからどちらがネコをしても変ではない。
望月は負けじと凛を押し返すが、既に押さえ込まれている所為かなかなか押し返すことができない。
「柚斗っ、諦めろっ……! 俺は下になるつもりなんかないっ!」
「嫌っす! 絶対諦めませんっ! 俺だってないんすからっ!」
二人の地味な攻防はヒートアップしていく。
望月は持てる力を全て使い、抵抗に費やした。
凛を抱きたい、という直接的な願望は未だ想像がつかない。
だが逆の方がつかないのだ。
想いを自覚してまだいくばくも経っていない。
直ぐに性に直結できるほど、望月は全てを受け入れている訳ではなかった。
だが、二人には時間が余りない。
この夏休みを過ぎれば次いつ会えるのか、わからないのだ。
お互いの想いが通じ合ったといえど、現実的に考えれば毎週帰ることなどなかなかできない。
望月は部活があるし、凛とて茶道の勉強がある。
良くて一ヶ月に一回程度だろう。
本来ならじっくりと時間をかけて育むべき愛なのだろうが、お互いとも初心ではない。
ならばできる時間があるときに、愛を確かめ合いたいのだ。
その意見は合致しているようだが、どうも役割については意見が分裂したようだ。
じりじりと締め上げられていく望月の手首。
とうとう力尽きてしまった望月が腕の力を弱めると、その隙を狙って凛が暴挙に躍り出た。
望月の両手を片手で締め上げると、空いた方の手をズボンの中に進入させたのだ。
凛の部屋で原稿をしていた望月はなるべく動きやすい格好をしていたため、ウエストがゴム状になっていた。
そう、つまり容易に進入を許してしまうのだ。
凛は望月の萎えている自身をぎゅっと掴むと、刺激を与えるよう上下に動かした。
「あ、結構でかいじゃん、柚斗の。ま〜俺だって負けてないけど」
「っは……ちょ、まっ……! う、あ……」
「……お? 硬くなってきたっていう、あー柚斗、勃起してきた〜」
「実況、すんの、やめ、てくんないっすか……っ」
「諦めた? うんうん、それで良い。まー今日は挿入しないし、安心して?」
「つーかっ、諦めてっ、ない……からっ」
「そうやって耐える顔堪んないなあ……チューしよ、チュー。ほら、ベロだして」
凛の手によって快感へと導かれている望月は、抵抗をするのをやめた。
それと同時に凛の拘束も解ける。
徐々に先端から濡れてくるのを感じながら、凛に従うと舌を出した。
それに気を良くした凛はその舌をベロリと舐めあげると、甘く噛みつく。
ぞくぞくと背筋を這い上がる、得体のしれないもの。
望月はその感覚に酔うと、自らも誘うように舌を絡ませた。
お互いがお互いをリードしようとするため、何度も角度を変えては舌を交互に進入させる。
入りきらない唾液が零れ、口元を濡らすがそれさえも気にならないほど、夢中になって舌を味わった。
望月は凛の頬を持ち、離さないようにと口付けを交わす。
凛はそれを受け入れながらも、完全に勃ち上がった望月自身を愛撫していた。
「ん、ふ……んん」
気持ちが良すぎてどうにかなってしまいそうだ。
望月は増える鼓動とどくどく脈打つ血液をはっきりと感じながら、下肢に意識を奪われた。
凛の細くてしなやかな指先が先端を弄る。
そこに弱い望月はびくりと肩を震わせると、腰を引いてしまった。
啖呵を切った通り、凛のテクは最高だ。
男は初めてのはずなのに、この巧みさは経験故のものなのだろう。
望月とて逆になれば同じ思いをさせてあげられる自信はあるのだが、現状ではそう上手くはいかない。
くちゅりという音をさせながら舌を啜っていた凛は、舌を引き抜くと、望月の額と己の額をくっつけた。
遠視でない凛だがあまりに近すぎる距離に、輪郭がぼやける。
そのぼんやりとした世界の望月は、快感に耐え、息をも飲み込むように唇を噛み締めていた。
時折漏れる声が非常にエロい。
今まで経験してきたなによりも強い興奮に、凛はもう片方の手を望月のティシャツの中に進入させた。
「う、あ……り、んさ……」
「ん? いく?」
「やっ、ば……も、……きもち」
強い快感の所為で立ち上がった望月の胸の突起を、爪でかりっと刺激する。
それと同時に自身を強く上下に擦ってやれば、望月は喉を仰け反らせた。
テニスのお陰で程よく焼けた健康的な肌。
だが露になった喉元だけは他より白いような気がして、凛はそれにごくりと喉を鳴らせると誘われるように口を近づけた。
ベロリとそこを舐め上げ、暑さの所為で滲む汗の味を舌に感じる。
くすぐったいのか余裕有り気に笑った望月に、凛も笑うと、そのまま床に雪崩れ込んだ。
そこから一度望月を絶頂に導いてやり、凛は勃起した自分自身を取り出すと寝転んでいる望月の口元に持っていきフェラをさせた。
望月の顔に跨っての体勢は非常に興奮し、少し涙目になりながらも凛自身を舐める望月にぞくぞくとする。
そのまま望月の手で固定をしてもらいながら、軽く腰を動かすと、望月の顔に白濁をかけるように凛も達したのだった。
「あ〜……最高」
はあはあと息の上がる望月を見下ろす。
凛の出した白濁で顔を汚しながらも、穢れていない望月の純粋さ。
次こそは凛を押し倒そうという野望を秘めている瞳は、非常に凛好みだ。
ただ流されるまま身を委ねる奴では満足しない。
いつだって反抗しようと足掻きながら、凛の掌中で転がされている様に興奮を覚えるのだ。
だが望月ならば、なにをしても興奮しそうだな。
凛はそう思うと萎えた自身をしまい込み、望月の顔を舐めてやった。
自分自身が吐き出したものを舐めるのは非常に頂けないが、望月の顔を舐めるのは楽しい。
わたわたと慌てだした望月に、にっと歯を見せ笑うと、最後に望月の唇に口をつけ、口腔に残っている白濁を流し込むような口付けを送った。
「……っ、は、青臭い……んすけど」
「俺の味。寮に帰るまでに覚えてよ?」
「……善処します」
望月に覆い被さったまま動こうとしない凛に、望月は困った風に微笑うと、凛の頬を撫ぜた。
夏休み終了まで一週間を切った今、進展を見せようともしなかった二人の関係が大きく変わることとなった。
ずっと時を共にしてきた幼馴染から、掛け替えのない存在へと。
だからといってなにかが変わったと聞かれれば、なにも変わっていないようにも思える。
それほど自然なことだった。
きっとずっとあったのだろう、変化をするきっかけは。
今まで何気なく過ごしてきた日々に意味を問うようになって初めて気付いた小さな疑問。
それを掘り下げれば、面白いように落ちていった。
傍にいた落とし穴。
落ちてみれば、世界は驚くものへと一変した。
彼女はできなかったけれど、彼氏ができた。
望月柚斗、17歳の夏であった。