女王戦争 01
※読む前に注意
雀蜂の女王蜂×軍隊蟻の女王蟻という虫擬人化ですが、内容はほぼ嘘っぱちです
忠実に書いちゃうといろいろ不都合な部分が多くあるためかなり改変しています
実際の雀蜂や軍隊蟻はこんな習性習慣性質じゃない! なんて多々あると思いますのでそのへんだけご了承ください
女王女王いうてますが雄です、雄社会に改変してます<BLだし
多分いないと思いますが、これを見て雀蜂や軍隊蟻に興味を持たれた方は調べ直して正しい知識を身に付けてください





 陸と空、決して交わらない世界がある。
 陸を拠点とし、定まった巣を持たず何十万という軍を率いて生活をするのは軍隊蟻。元は蜂科でありながらも独自の進化を遂げ発展してきたその勢いは留まることを知らず、地上に敵はいないと言われるほどだ。
 目が弱く、そこが唯一の弱点と思われがちだったが空気の振動や匂いであがなえた。強靭な力を持って他者を食い殺し、軍隊蟻の通った後は正に骨と化す。陸の王者というべき存在。
 一方空を拠点とし、数万という規模ではあるが圧倒的な力を保持するのは雀蜂。蜂科最強と謳われることもあってか性格は凶暴で獰猛、装備されている毒は生物を一瞬で殺すほどの猛毒。
 食しているものは花蜜などが多いが巣に近付けば最後、あっという間に殺されてしまう。常に警戒態勢をしいている巣は堅城とも言われ、守備も攻撃も兼ね備えた最強の戦士。空の王者というべき存在。
 そんな二種類の虫は、会うことはあっても関わることなどまずない。陸の王者の軍隊蟻と、空の王者の雀蜂。だけど誰も知らぬところでこっそりと、交わされる秘密がある。
 決して交わることなどなかった世界が、交わってしまった。そんな世界があったのだ。

「ヒトフシ様! 異常なしです。ここで腰を据えるのが一番かと思います。これから大事な産卵期です。どうでしょうか、ここなら落ち着けそうですか?」
 ざわざわと黒で埋め尽くされた世界の真ん中に、ぽつりと佇むのは圧倒的な存在感を放っているこの軍隊蟻の群れの女王蟻ヒトフシだった。しなやかな体付きに流れる水のように美しい黒髪、肌は白く黒目がちの目は濡れて見え、もの言わぬ人形のように美しい顔立ちをしていた。
 それもそのはず、ヒトフシはこの軍の長で唯一の女王蟻。軍を維持していくのも、軍を増やせるのもヒトフシしかいない。ヒトフシなしでは成り立たない軍なのだから、美しくあり続けなければならないのだ。
 ゆるり、と視線を巡らせたヒトフシは移動するのにも飽き飽きしていたのか殊更あっさりと頷いてみせた。最も彼の意見などあってないものだ。それが罷り通ることなど少ない。
「構わない。ここで暫く産卵期に入るとしよう」
 ワア、と歓声が上がる。この軍隊の誰よりも視力が発達しているヒトフシでさえ端が見えないほどに多い蟻の群れ。何十万、何百万と膨れ上がる軍にヒトフシは自由を奪われていった。
 盲目の蟻が多い中、一体どれぐらいの蟻がヒトフシを認識しているのだろうか。考えて馬鹿馬鹿しくなった。ヒトフシは死ぬまで、この軍の女王蟻でい続けなければいけないのだ。考えたところで今更やめたと言えるような環境でもない。
「ヒトフシ様、どこかへお出かけでしょうか」
「……ああ、暫く探索をする」
「ではお供のものを幾人かお付けいたしましょう。ヒトフシ様は大事な女王蟻であります、お体になにかあっては一大事」
「必要ない。それにフェロモンを辿れば良いだろう。心配しなくても逃げはしない。……暫く独りにさせてくれ」
 寄って集る護衛を制し、ヒトフシはふらふらと軍を抜け出すと人目の付かぬところへ隠れることにした。
 年がら年中気を張って軍のためだけに生かされて名ばかりの女王だ。少しぐらい、例え居場所がわかられていても少しぐらい逃避行のような気持ちを味わいたかった。
 どこへ行ったって結局はなにも変わらない。今から産卵期に入るまで、耐え忍ぶだけの生活なのだ。
 できるならば早く、寿命が短くなろうとも、生殖能力を失って巣から放り出されたい。死に絶えるだけの運命だとしても、ただ生かされるだけの生よりはましに思えた。
 空を見上げて澄み切った青を視界に入れる。軍隊蟻のほとんどはこの綺麗な青空など意識したこともないんだろう。最も見えることもないが。
 女王蟻で良かったと思えることは、視力があるということだけだ。
 這い蹲って日陰だけの生活でも見上げれば、どこまでも続く青空に会える。
「ああ、そうか……」
 青空を恋しいと思うのは青空に恋焦がれているのではなく、青空を有している彼を思い出すからだ。
 確かこの辺りに巣を作っていたはずだ。ヒトフシを女王蟻として動く軍隊蟻は巣を持たずふらふら移動してばっかりだが、空のものは拠点を置いて生活を営んでいる。
 ちらちら青空に影が遮る姿の中に見慣れた虫を見つけた。
 強烈なフェロモンを放ちながら一匹で浮遊しているのは空の王者、雀蜂の女王だった。接点が全くない世界に住んでいるのに関わらず、どうしてだかこの二匹は知り合ってしまったのだ。
 滅多に会うことなどない。生活も違えば住居も違う、種族も違えば習慣だって食事だって違う。雑食のヒトフシと違い、雀蜂のヤミはローヤルゼリーしか食べない。
 共通点といえば同じ女王であり、巣の王者であり、決して抜け出せることのできない世界に捕らわれているということだけだ。
「ヤミ」
 いつかの日を思い出す。振り向いたヤミの表情は逆光で良く見えなかったが、黒々しいだけのヒトフシと違って輝かんばかりの黄金が綺麗だと思った。
「ヒトフシ、やっぱりここにきてたのね。ぞろぞろと軍隊蟻が地面を黒く覆っているのが見えたから、思わず巣から出ちゃったわ」
「良いのか。王室にいなけりゃ駄目なんだろう」
「ヒトフシだって軍にいなきゃならないでしょう? お互い様よ」
 羽音をさせながら降下してきたヤミと視線が一直線になる。黄褐色の瞳に縁取られた睫の多さ、肌は白くほんのり薄紅帯びている。髪は輝かんばかりの黄金色で触れたらさらりと指を通っていった。
 黒を基調とし洗礼された美しさを誇るのが女王蟻ヒトフシで、黄金を基調とし華やかな美しさを誇るのが女王蜂ヤミだった。
 ヤミの汚れない指先が、ヒトフシの目元をゆるりと撫ぜ付ける。
「それにねえ、豪華絢爛贅沢三昧そんな日々にも飽きちゃったわ。ローヤルゼリーもそんなに美味しくないし、することっていえば……ねえ?」
「……それも、お互い様か」
「だからヒトフシここにいるんでしょう。皮肉よね。滅多に会えないのに、こうやって会えるときはいつもそうなんだから」
「……まあそんなことを言っている暇もないんだ。そろそろ……」
「嫌だわあ、そんなこと言って。会いにきてくれたんでしょう? そうやって逃げても無駄よ。貴方は私から逃げられないんだから」
 ヤミの横を通り過ぎようとしたヒトフシの腕を強く握った。ヤミは残酷そうに唇を歪めると、指に舌を這わす。
「やあね、死ぬまで何回会えるかわかんないんだから、こうやって会ったときは思う存分貴方を壊したいって言ったの、もう忘れたの?」
 甘く、きつく、強く、歯を立てられる。指先に走った痛みに、ヒトフシは眉間に皺を寄せると一歩たじろいて下がった。
 凶暴な性格をしている軍隊蟻といえども所詮それは食物連鎖が織り成すものだ。だけど雀蜂は根から凶暴な性質だ。なにがヤミをそこまでさせるのか、最初から逃げられるなどと思ってもなかったが背中にぞくりと悪寒が走る。
「まだ穢されてない貴方を一番に穢すのが、私の楽しみなのよ。今回はまだでしょう? 今からだものね」
 首筋に手を掛けられて柔い力で締め付けられる。ほんの少しの息苦しさと本能的な危機に、匂いが漏れ出した。
「可笑しいって思う? 生殖本能すら嫌になっちゃうのよ。貴方が女王蟻でい続けるのが、私は気に食わないの」
「……一緒だって言ったら、どうする?」
「そう言ってくれるの、期待してたの」
 赤く色付いた唇が、ヒトフシの唇と重なり合った。生殖するために必要のないことを、決して意味のないことを、交わるべきではない二匹同士でしている。
 あの日空など見上げなかったら、話し掛けなかったら、触れようとしなかったら、こんなことは潰えるまで知らなかったことだ。知ることもなく、散っていっていたのだ。
 必要ではないのに、こうして触れられるとどうして良いのかわからなくなる。立場も忘れて縋ってしまたくなる。だけどそれは決して言えない願い。
「……ヒトフシ」
 耳元で囁かれる名前は不思議なことにヤミが紡いだというだけで特別な名に聞こえた。
 花の茎に押し付けられ、唇を貪られる。舌を絡め合わせて、ヒトフシの舌がヤミの歯を舐めるとぞくぞくと得体の知れない感覚に捕らわれた。
 無理に虐げられるあの屈辱とは違い、ヤミの手付きは乱暴でもヒトフシにとっては甘く感じられる。体中に毒が回って可笑しくなって、熱くて堪らない。
 降下していく唇に、身悶えて声を揺らす。胸板に吸い付いたヤミの髪を握り締めて、堪え切れず声を漏らした。
「あ、あ……」
 こんなに愉悦を覚えるのも、熱を帯びるのも、愛おしく感じるのも、ヤミとしている行為だからだ。
 本来なら生殖行為にあたるそれもヤミ相手になると、もっと別の、意味があるものに思えて仕様がない。
「ヒトフシの肌、相変わらず綺麗ね。汚したくなるのよ、見ていると」
「は、……んなの……」
「赤映えしそうだけど、貴方には白が一番映えるわね」
 しなやかな体のラインを確かめるように、ヤミはゆったりとした手付きで撫ぜ回していった。次にいつ会えるかさえわからない世界で、ヒトフシを忘れないよう確かめるような手付きだ。
 だけども焦れったくもある動きに、徐々に息を上がらせて身悶えるのはヒトフシで、ヤミに触れられるだけで早くも下肢が疼いて仕様がなかった。
「ぁ、あ……ヤミ……も、う……」
「あら、今日は早いのね。そんなによかったかしら?」
「はやく、しろ……」
「目は口ほどにものを言う、よね。正に」
 緩く勃ち上げ始めていたそれに、ヤミの指が絡まる。直接的な刺激に対し大袈裟に体を揺らしたヒトフシは、背中を茎に預けると切ない声で鳴いた。
 喉を仰け反らせ絶え絶えの喘ぎを零す。ただ性器を握って動かしているだけなのに、この感じようがヤミには堪らなく愛おしく感じた。
 黒々としてしゃんと立っているさまは酷く禁欲的なのに、ヤミが触れるだけで呆気なく崩れ去る。愉悦に溺れ落ちていくさまを間近で見られるのは眼福以上のものだった。
 ヒトフシの肌を知っているものはヤミ以外にたくさんいようと、ヒトフシが乱れるさまを見られるのはヤミだけだ。
 うすらと粟立ってきた肌に唇を寄せ、握り込んだ性器を追い詰めるよう上下に揺れ動かした。
「ぁっ、ああ、あ、……ああ……」
 緩く頭を振って熱い息を吐き出した。早くも滲み始めた汗が滴って地面にぽとりと落ちる。
 がくがくと力を失っていく足を踏ん張ろうとしてもうまく力は入らず、茎にもたれようとしても容赦のないヤミの攻めに逃げてしまいそうになる。
 追い詰められたヒトフシは唇を強く噛み締めるとヤミに縋り付いて、ぶるぶると体を震わせた。
「ああ……っ!」
 びゅくりと下肢から勢い良く這い上がる感覚と共にぱっと弾けた白の染み。ヒトフシは精液を迸らせると切なげな声を上げてヤミに甘えるよう、額を宛て擦った。
 上手く息が整えられず、程良い疲労感に襲われた体は立っているのが精一杯だ。震える手でヤミの体にしがみ付いて、崩れ落ちないよう踏ん張った。
「ヒトフシ、これだけで限界なの? そうじゃないでしょう?」
 擽るような甘ったるい声。だけど顔は笑ってもいないのだろう。ヤミのことだ、残酷な表情をしているに違いない。
 ただでさえ生殖行為に似たことをしているのだ、お互いのフェロモンに充てられ脳が麻痺していくような状態なのにヤミは平然としたまま。ヤミ自体元よりフェロモンが過多気味だったので、これに慣れているのか。
 背筋を何度も行ききして触れる指先に、ヒトフシは両腕をヤミの首に回して抱きついた。
「……すきに、すれば良いだろ……」
「やあね、わかってないんだから。求められてこそのものでしょう? まあ貴方の行動で実感するからそれはそれで良いんだけどね」
 尾てい骨をなぞっていた指がゆっくりと焦れったく下がって、奥ばった場所撫ぜた。硬く閉ざされた入り口を解すように何度か指が上下に動き、そこを柔らかく刺激する。
 蘇ってきた甘い痺れに、ヒトフシは腰を揺らめかせるとそれを迎え入れようと力を緩めた。
「ヒトフシ、わかる? これは、私の指よ」
 ず、ず、と中に押し入ってきたヤミの指先にヒトフシはこくこくと頷いた。
 まだ幾分も柔らかさを持っていないそこではあったが、ヤミの言葉でほうと力が抜けていく。脳が命令する、その指はかのものたちではなく、ヒトフシが待ち望んでいたヤミのものなのだと。
 そう思うと我慢が効かなかった。お互いに女王という立場ゆえ、快楽には滅法弱い。そういう風に体が作られているのだ。生殖期に逃げ出さないように。
 だけど強制的に引き出される快楽とは違い、ヤミが与えてくれるのは望んでこそのものだ。ヒトフシは蕩け切った声でヤミの名を呼ぶと、腰を揺らして指を奥へと誘った。
「あ、ん……っんん」
「ヒトフシ、もうこここんなに柔らかくなってるのわかる? とろとろよ、いやらしい子ね」
「ヤミ、ヤミ……」
 苦しそうに喘いだヒトフシが唇を近付けて、ヤミのそれを塞いだ。行為に縺れ込むと別人のように変わり果ててしまうヒトフシをヤミは殊更愛しいと思う。
 どろどろに溶かすことができるのは、ヤミしかいないのだ。自由のようで不自由に縛られた世界で、唯一見つけたのはほんの少ししか交わることができない黒の宝石だった。
 幾分かもすれば、ヒトフシは軍隊蟻の元へ、ヤミは雀蜂の巣へ戻り返っていく。そうして産卵期に入れば最後、顔を合わせることなどなくなるだろう。最後の産卵期だった場合はもう二度と会うことも、存在していることだってなくなる。
 そんな世界に生きているからこそ、触れ合うことが愛おしくて切なくて苦しくて堪らなかった。こうしていることが、この上ない幸せに思えた。
 鳴き声に混じってただ何度もヤミの名を呼ぶヒトフシに、ヤミは堪え切れず指を引き抜くと、既に臨機応戦にある性器を取り出した。
「そんなに呼ばなくても、聞こえてるわよ。ちゃんと届いてるわ」
 ヒトフシの乱れ切った痴態を見れるのがヤミだけだとしたら、ヒトフシの特権は使われることのないヤミの性器の感触を知っていることだろう。
 硬くなった切っ先をヒトフシの後孔にぴたりと合わせる。片足を大きく上げ、ヤミの肩に乗せたヒトフシは窮屈そうな顔をしたが文句は言わなかった。
「挿れるわね」
「……ああ、いれろ」
「もうちょっと色気ある言い方で言ってほしかったわ」
「……ヤミが、ほしい」
「それ、凄くきゅんとしちゃった」
 ぐりぐりと切っ先で後孔を擽りながら、ヤミは焦らすことなく一気に最奥へと突き立てた。強過ぎる衝撃に歯を食い縛ったヒトフシは、滑らかな手触りのヤミの髪の毛を強く握り締めるとヤミを迎え入れたのである。