乙男ロード♡俺は腐男子 29
 吉原の部屋は、異様な雰囲気で包まれていた。
 不機嫌ながらも吉原特製のフレンチトーストを食べる和泉と、頭を垂れる水島。 どうしたら良いのかわからずに視線をさ迷わせる吉原に、吉原特製のフレンチトーストを頬張りながら和泉を見つめる竜也。
 誰もなにも喋らないまま、ずっとこのような状態が続いていたのである。
 本来なら吉原が水島に連絡して足止めをしとくべきだったのだが、そこまで頭が回らなかったのだ。 その結果がこれだ。
 邪魔だからといって竜也を追い出すこともできず、和泉の機嫌をとることもできず、吉原はただじっと座っていた。
「ねー柳星、僕のはアイスないのー?」
「……ああ、ない。あれは蓮特別」
「え〜残念……じゃあ、次はアイス乗っけてくれる?」
「……ん、あ、まあ」
 言葉を濁して吉原は和泉を見るが、和泉は視線すら合わせたくないといった様子で横を向いている。
 いくら鈍い吉原でも、和泉の不機嫌の理由ぐらいはわかるので下手に動きたくない。 愛されていると実感するが、こんな形では実感したくないのだ。
 今はなにを言っても聞き入れてくれなさそうな雰囲気だし、吉原は先ほどまでの甘い雰囲気を思い出しながら溜め息を吐いた。
 そんな吉原に助け舟を出すことにした水島は、和泉の耳元に口を寄せると竜也に聞こえないように小さく言う。
「おい、和泉君、大人げないぞ。ここは年上の余裕を見せてだな……それに竜也は心配す」
「なんか言った?」
「……いえ、なにも……」
 フレンチトーストを食べるフォークで鼻先を指され、水島は口を閉じた。
 水島が良かれとしてやった行為は裏目に出て、和泉はますます機嫌が悪くなってしまったのだ。
 竜也が羨ましそうに和泉のアイスを見ても、目を見ても、和泉はひたすら無視をする。
 和泉の心境がわかってしまう分、もう吉原と水島はなにも言うことができなかった。
 和泉も和泉で自分が大人気ないと一番わかっている。 自分より一個下の竜也は見た目も精神的にも幼いし、吉原や水島に向ける視線が兄のものだと理解はしている。
 だけど竜也が吉原に固執しているところや、名前で呼ぶところ、甘えるところを見ているとどうしても苛々としてしまうのも事実だ。
 自分だって吉原に思う存分甘えたいし、名前で呼んでもみたい。
 簡単にできそうでできないことを、目の前の竜也は当たり前のようにしている。 それが一番、気に食わないのだ。
 本来なら吉原が凛に歩み寄ってくれようとしたように、和泉も竜也に歩み寄ろうとしなければならないのに、する気さえ起きない。
 なんて自分勝手なのだろうか。 それにも和泉は腹が立って仕方がなかった。
 第一吉原も吉原で久しぶりに二人きりになれたのだから、それを考慮しても良いと思うのだ。
 この空間には竜也だけではなく水島もいる。 これじゃあどうすることもできない。
 なにより和泉だけの特権だと思っていた料理を、竜也に振舞うところも嫌なのだ。 勝手にそう思っていただけなのだが、いざ目の前でやられると少し遣る瀬無い。
 どんどんと落ちていく深みに和泉はどうしようもなくなって、美味しいはずのフレンチトーストを味わうことなく一気に食べた。
「帰る」
 言うが早いか和泉はおもむろに立ち上がると、一直線に扉へと向かった。
 吉原と過ごす時間は変えがたいものだが、竜也と共有する気はない。
 少し竜也には悪い態度を取っていることはわかっていたが、そんなこと気にしていられなかった。
 玄関に向かって行ってしまった和泉を慌てて追いかけたのは吉原で、ついて行こうとしていた竜也を水島が止めた。 流石にここで行かせてしまえば和泉をますます怒らせてしまうだろう。
 いつまで経っても吉原離れしそうにない竜也に、水島は初めて疑問を感じるのだった。
「ま、待て。今は行くな」
「どうして? 柳星のお友達でしょ? 颯も見送りしなきゃ!」
「……あー、いやな、和泉君は友達っていうか……」
「和泉さん可愛いよね、お人形さんみたい!」
「まあ黙っていればお人形みたいだな、じゃなくて! 良いか、竜也、まだ言うべきときじゃないと思って黙ってたんだがな……その、和泉君はだな、柳星の、その……恋人なんだ」
「……え?」
 愕然とした表情で水島を見つめる竜也。 なんだか嫌な予感がして、水島は背中にたらりと汗をかいたのだった。
 一方帰ろうとしていた和泉を寸でのところで捕まえると、吉原は無理矢理自分の腕に収めた。 身長が伸びたといえど、まだまだ小さい和泉は吉原の腕にすっぽりと収まってしまう。
 暴れるかと思っていたが和泉は大人しく、吉原にされるがままになると、自分からも背中に腕を回すのであった。
「……ごめん」
「なんで謝るんだよ。オレの方こそ、悪かったな。あいつ悪い奴じゃないんだけど、まだ子供っていうか……」
「知ってる。けど、嫌だったんだ。……ほんと、ごめん……よっし、きらいに、なった?」
 少し泣きそうな声色で和泉はぽつりと呟いた。
 自分がとった行動は嫌われても仕方がないのだ。 不安でどうしようもなくて聞いてしまったが、なにも言わない吉原にますます不安になる。
 もう駄目なのだろうか。 そう思い吉原から離れようとしたが、それを吉原が許す訳がなく、和泉を抱き上げると玄関の外に走り出したのである。
 急な出来事に慌てて吉原の首にしがみつき、声を出す和泉。
 そんな和泉に吉原は笑うと、どこかに向かって一直線に走るのだった。
「ちょ、よ、よっしー!?」
「嫌いになる訳ないだろ? ますます好きになった!」
「っ……」
「二人でどっか逃げようぜ。風紀委員室なら誰もこねーから」
「か、神谷先輩や森屋先輩は!?」
「今日はいねーよ、もしいても追い出す!」
 悪戯をした子供のように笑う吉原を見て、和泉は先ほどまで感じていた嫉妬がなくなるのを感じていた。
 いやらしい思いかもしれない。 だけれど吉原が竜也より和泉を優先してくれたことがなにより嬉しかったのである。
 ぎゅっとしがみつく和泉に、吉原もまた幸せを感じていたのであった。
 誰かに追われている訳でもないのに急いで風紀委員室に入る二人。
 大袈裟な音を立てて扉は閉まる。 鍵をしっかりとかければ、そこは二人だけの空間となった。
「……蓮」
「よっしー?」
「ちょっと、我慢、できねーかも」
 吉原は和泉をゆったりとしたソファに寝かすと、覆い被さった。
 この体勢はまさにことをしようとしている体勢なので、不安に思った和泉は吉原を見る。 だが、その瞳に映る色を見てなにも言えなくなった。
 急な展開だと思っていても、いずれはこうなるのだ。
 だけどあまりにも早すぎる出来事に、和泉は吉原の胸をそっと押し返した。
「……ま、まって、ちょっと」
「ちょっとって?」
「っ、……」
「蓮、わりー我慢できねえんだわ。さっき、颯たちがこなければ、って考えてたらどうしようもねえ」
「で、でも」
「まだ怖い?」
「……うん」
「最後までしねえ。……蓮、ほんと、すきなんだ。嫌だったら殴って出て行ってくれても良いから」
 ずるい、その台詞は和泉が言う前に吉原に掬われていった。
 少し焦ったような唇が和泉の口を塞ぎ、和泉は観念したように吉原の首へと腕を回した。
 確かに吉原の言うように、さきほど水島たちが入ってこなければどうなっていたのだろうか。 あの時点で覚悟をしていたのではないか。 和泉はばくばくと煩い心臓を感じながら自問自答をする。
 決して嫌な訳ではないのだ。 ただほんの少し怖いだけで、和泉の望んでいない行為ではない。
 吉原が強引にことを進めてくれればいつだって覚悟はしていた、はず。
 抵抗することをやめた和泉は吉原のことを信じて、全てを捧げることにしたのである。
「……寒い?」
「ううん、平気……」
 和泉の制服のボタンを外しながら、吉原は震える手を見て苦笑いを零した。
 慣れているといえども、想いの通った相手じゃこの震えを止める術すらもたない。
 ゆっくりと露になる和泉の白い肌。 傷一つない鎖骨に唇を寄せると所有の印をつけた。
 びくりと震える和泉の身体。 それが可愛くて、吉原はしつこいと怒られるまで何度も何度も印をつけたのである。
「っ、ん……ン」
 寒さか緊張の所為でぷくりと立ち上がった突起を指で掠めれば、和泉は上擦った声をあげる。
 男といえども敏感なそこは、快感に慣れていない和泉でも感じるようだ。
 恥ずかしそうに唇を噛みながら快感に耐える和泉の顔を覗き込み、吉原はそこを緩く刺激する。
 ぞくりと駆け上がるくすぐったい刺激の中にあるどうしようもない感覚。 和泉は思わず怖くなって、愛撫をしていない方の吉原の手をぎゅっと握った。
「……は、っ、あ……ぁ」
「気持ちいー?」
「き、くな……っ!」
「蓮がすっげー可愛いから、苛めたくなる」
「あ、……や、それ……っ」
 緩く撫ぜるだけの愛撫から、摘んだり捏ねたりする愛撫に変えれば、和泉の反応も良くなる。
 余裕を見せていた表情も焦りと快感の色を浮かべ、甘い声も大きくなった。
 赤く熟れた突起が完全に性感帯になるのはまだ早いようで、じれったい刺激に和泉は我慢することなく足を擦り吉原にサインを送った。
 いくら和泉といえど自慰をしたことがない訳ではない。 気持ち良ければどこが反応をするかなど、自分自身が一番わかっている。
 胸だけの愛撫じゃ物足りなくて、強請るようにしてみせるが、吉原は気付かないふりをしてただ突起を弄るだけだった。
「れーん、どうしてほしいのか言えるだろ?」
「やっ、ば、ばか……っむり……!」
「言わないと、やめるぞ?」
 やめられて困るのはどちらかといえば吉原の方なのに、余裕を見せてそう言う。
 だけど辛いのは和泉も一緒で、羞恥に死にそうになりながらも小さく声を出した。
「し、した、も……」
 望んでいた言葉とは少し違うが、初めてでそこまでさせるつもりもない。
 吉原は和泉を撫ぜてから、ズボンをゆっくりと脱がせパンツから主張をしている自身を取り出した。
 ししどに濡れている自身が和泉のものだと思うだけで、吉原は嬉しくなる。
 ずっと夢見ていた行為がまさかこんなに早くできるとは思わなくて、最後までしないと言ったものの我慢できるか不安にもなる。
 だけど一番不安なのは和泉だ。 そう思うと我慢できるから不思議なものである。
 刺激を待っているかのように震える和泉自身をぎゅっと握ると、吉原は胸の突起にも舌を這わせた。
 同時に得る快感。 初めて他人にしてもらう強い快感は和泉に強烈な刺激をもたらしてくれた。
 これが良いのか悪いのかさえ理解できない状態。 ただそこに感じるのが吉原ということで、和泉は必死に理性と戦っていたのである。
「あ、っあ……よっしっ……!」
 このままじゃとてもじゃないが我慢できそうにない。
 吉原の手はイかせようとスピードを増すし、胸の刺激もあいまって怖いぐらいの快感。
 いくら手を剥がさせようと和泉がもがいても、吉原はびくともしないのだ。
 和泉はどうせイくなら一人より二人一緒が良い、と思っていた。 性欲旺盛のこの若い時期といえども、他人にイかされてしまえば体力の消耗も激しい。
 和泉はどうにからならないものか、と薄い意識の中考えて、無我夢中で言葉を紡いだ。
 素面なら絶対に言えないような言葉も、熱に浮かされていれば素直になれるのだと、このとき初めて知ったのである。
「りゅーせっ……いっしょ、に、いきた……っ」
 和泉から初めて呼んでもらった名前と台詞に、吉原は思わず手を止めてしまった。
 驚いて和泉を見れば恥ずかしそうに俯くだけで、もう言う気はないといった様子だ。 だけども聞き間違いじゃないそれに吉原は自身がぐっと大きくなるのを感じると、和泉のお願いを聞いてやることにした。
 本当は和泉だけイかせて自分は自己処理をする予定だったのだが、和泉はどうやら一緒にイきたいらしい。
 なんとも嬉しいお願い。 それに和泉のお願いなのだ、誰が断ることができよう。
 少しぐったりしている和泉を抱き上げると、吉原はソファに座り、自分の膝に和泉を座らせた。
「じゃあ、オレの取り出して。もうおっきいから」
「な……」
「一緒にイくんだろ?」
「……う、わ、わかったよ」
 緊張の所為なのか震える指先を叱咤して、和泉は吉原のズボンのファスナーをおろした。
 ボクサーパンツに浮かぶ吉原自身にどきどきしながら、ゆっくりとずらすと自分より大きなものが勢いよく飛び出した。
 それに息を呑んだのは和泉。 今日は挿入しなくともいずれかは挿入するであろうものだ。
 これがMAXとも限らないのだが、今の状態でこんなに大きいものが果たして入るのだろうか。
 和泉は耳年増で知識だけは豊富だったが、経験が全くない。
 やはり二次元と三次元は違うものだな、と思いながらそっと吉原自身を掴んでみた。
 少しぬるついて温かいそれは和泉が触れた途端、どくりと脈を打って驚いた和泉は慌てて手を離したのである。
「……ぜったい入らない」
「入る入る。つーかぜっっったい挿れる!」
「む、むり!」
「今日は挿れないし安心しろ。ほら、集中しろよ」
 吉原は和泉の手に自分自身と和泉自身を握らせると、その上から自分の手も重ねて上下に動かした。
 途端に大人しくなって頬を染める和泉。
 声を出すのが恥ずかしいのか唇を噛んでしまった和泉の唇に、そっと自分の唇を重ねキスをした。
 手を起用に動かしながら口腔を蹂躙する吉原に、和泉は必死で追いつこうとするが、経験の差なのか、時間が経てば経つほど手も動かすことができずただされるがままになる。
 お互いの自身から漏れる濡れた音と、唇が離れる合間に出す熱い吐息。
 どれぐらい経ったのだろうか。 とうとう我慢を超えた和泉が耐え切れずに達してしまうと、それを追うように吉原も絶頂に達したのであった。
 手の隙間からどろりと漏れる白い液。 両方とも少し濃くて、溜まっていたのだな、と実感させられる一瞬であった。
「蓮? 大丈夫か?」
「……は、はずかしくて死にそう……」
「でも気持ち良かっただろ? もーオレ、すっげー幸せ。蓮も可愛かったし、名前呼んでくれたし、良いことづくしっつーの?」
「よ、っし、……あの」
「ん?」
「……最後まで、するの、時間かかると、思うけど……待っててくれる? い、いやじゃなかったし、気持ち良かったから、……その、今みたいなの、また、してもいーよ」
「蓮っ、じゃあお言葉に甘えてもう一回!」
「きょ、今日はもう無理!」
 勢い良く押し倒してきた吉原に和泉は慌てて抵抗をすると、その腕から必死に抜け出したのである。
 なにはともあれ中途半端な行為ではあったが、二人はその行為を通して前よりもちょっとだけ距離が近くなった。
 少しだけ素直になれた和泉はあんなにも吉原が喜ぶのならたまに名前で呼ぶのも悪くないな、と思ったのは本人のみぞ知ることだった。