「は、っ……ぁ」
「蓮? どうした?」
「っ、も、……は、なし……て」
時間にすると一時間くらいだろうか。
和泉はずっと吉原に身体をまさぐられ続けていた。
緩い愛撫で耳元、首筋、胸を手や舌で刺激され、和泉の下肢はどろどろに濡れていた。
達せそうで達せない曖昧な愛撫は和泉を上り詰めるだけ上り詰めさせて、開放させてはくれない。
いくら懇願しても吉原は頑として下肢を触ろうとはせずに、和泉は狂ってしまいそうだった。
和泉は後ろから抱き抱えられながら、肌蹴た胸元を這う吉原の指を見つめている。
その指は下にいく素振りもみせずに、既に弄られすぎて真っ赤に熟れた突起を摘んでいた。
硬くなっているのが嫌でもわかり、和泉は熱の篭った息を吐くとそっと目を瞑る。
気持ち良いけれど、開放されたい。
和泉の目尻からそっと零れた涙を吉原は舌で掬うと、和泉の腹部をそっと撫ぜた。
「りゅ、せ……も、ほんと、い、かせて」
「しゃあねえなあ。じゃあ自分で脱いでみろよ。触ってやるから」
「……、ん」
羞恥などに構っていられないほど、和泉は絶頂を待ち望んでいた。
拙い動きでズボンとパンツを膝辺りまで脱ぐ。
現れたのは先走り液でべっとりと濡れ、腹につくほどに勃ち上がった和泉自身だった。
ふる、と和泉の身体が震える。
快感に期待した自身からとろりと先走り液が零れて、吉原はごくりと唾を飲み込んだ。
「触ってほしい?」
「……う、ん」
「こんなになって、触っただけでイくんじゃね?」
腹部にあった指が肌を這うようにゆっくりとおりる。
和泉自身の直ぐ側までくるとその指は根元を握り、荒い動きで上下に刺激し始めた。
待ち望んだ刺激に和泉は大袈裟に身体を揺らせると、漏れてしまいそうになった声に強く唇を噛んだ。
びくびくと下肢が小刻みに震える。
既に極限状態だった和泉自身は、数回擦られるだけの動きで呆気なく欲望を吐き出してしまったのだった。
はあはあ、と荒い息を漏らす和泉。
視線を下に向けると、自分の吐き出した白濁が吉原の指と自分の腹部を汚しているのが見えた。
「早かったな」
吉原は和泉の耳に息を吹きかけるように言葉を発した。
達した後の身体は敏感だ。
和泉は些細な刺激にも息を詰める。
和泉のお尻に自分自身の欲望を擦りつける吉原の行動に、和泉自身は少しだけ反応を見せた。
恥ずかしくなって俯く和泉を吉原は優しく抱きしめる。
セックスのとき、行動や言葉が意地悪になる吉原だがたまに少しだけ優しくなる。
それにどきどきと胸を高鳴らせてしまう時点で、和泉も吉原にメロメロなのだろう。
身体を少し捻るようにして後ろを振り向けば、楽しそうな笑みを浮かべている吉原と目が合った。
「……キス、して?」
「いーよ」
和泉の顎をそっと持ち、自らも前に身体を捻じらすようにして吉原は和泉の唇を塞いだ。
舌を侵入させてやればそれは想定外だと思っていたのか、和泉の肩がびくりと反応する。
気付かないふりをしてそのまま舌を弄びながら、吉原は気の済むまで和泉の口内を蹂躙した。
逃げ惑うように動く和泉の舌を器用に捕らえ、自分自身の舌を絡ませる。
心地好い体温を感じながらも、吉原は和泉とのキスに夢中になっていた。
ぬるりと舌が蠢く。
名残惜しげに離れた吉原の舌は、和泉の顎に垂れた唾液を舐めると潔く離れていった。
とろん、と和泉の目が熱に浮かされている。
その隙を狙った吉原は指を下肢に入り込ませると、なかなか触らせてくれない秘部を突いた。
和泉を十分に焦らした所為か、先走り液が垂れたそこはししどに濡れている。
何度か入り口周辺をなぞるように動かせると、そっと中へと指を挿入した。
「っあ、だ、……そこはだめ!」
「ちょっとだけ、な。触るだけだろ」
「ま、っあ……んん」
ぐいぐいと中へと侵入してくる指。
吉原の手を踏んでいる状態なので、吉原の指は奥になかなか入れずに苦難している。
和泉はそれを狙って上体を前に倒したが、吉原の開いている方の手で簡単に引き戻されてしまい、その衝撃で指が奥まで入ったのだった。
気持ち良いといえない曖昧な感覚。
眉を顰める和泉などお構いなしに吉原の指は中をまさぐるように動き出すと、和泉の良いところを探し始めた。
あまり中に指を入れることを許したことはないが、何度か中に入れられてしまったこともある。
そのときに嫌だというほど教え込まされた快感。
それは性の経験値が浅い和泉にとっては怖いものであった。
頭が真っ白になって、身体と心が離されていくような感覚。
必死になって吉原だけを感じていれば、迫ってくる絶頂に耐え切れなくなって、最後には達している。
嫌な訳ではないが恐怖を感じていた和泉はいやいやと首を横に振ると、吉原の腕を掴んだ。
「あ、っ……ま、まって!」
「やだ。待たない。ほら、どこが良いんだよ。ここ?」
「っ、ち、が」
「……ここだろ?」
ビクッ、と和泉の身体が大袈裟に跳ねた。
吉原に言われた通りそこは和泉の前立腺であった。
擦られるだけで考えもつかないほどの大きな快感。
和泉はただ身体を震わせて声をあげるだけで、抵抗らしい抵抗もできそうにない。
達したばかり故に直ぐに絶頂は襲ってはこないが、ゆるやかに上り詰めるような快感に頭が白くなっていく。
ただ感じるのは浮かされるような熱だけ。
ぬちぬちと湿ったような音を立てさせながら動く指に、和泉は翻弄されるばかりだった。
速かった吉原の指の動きがゆっくりと速度を緩めていく。
そして完全に動きを止めた吉原の指は、そこからゆっくりと出た。
嫌だと思っていたのに、いざ抜かれると寂しいものがあり、和泉の入り口は指を逃がさないとばかりにきゅっと締め付けたのだった。
それにかっと頬を赤らめさせた和泉だったが、吉原は気にするな、というように頭をぽんぽんと叩く。
和泉が見上げれば、艶やかな表情で舌なめずりをする吉原と目が合う。
その表情が終わりではないのだと教えてくれて、和泉は少しだけ期待に身体を震わせた。
「今日はここまで、な? ゆっくり慣らしていくから」
「……う、うん」
「つーか……オレもそろそろ限界」
吉原は和泉の身体を半回転させるとそのままソファへと寝かせる。
仰向けに寝転んだ和泉の身体を見て、吉原は自身がまたぐっと大きくなるのを感じていた。
インドアな故に日に焼けていない和泉の肌は白いのだが、今は熱の所為で赤く染まっている。
可愛らしい顔つきに勃ちあがった自身がアンバランスで、それがまた吉原を興奮させた。
力が抜けている和泉の膝裏を抱えあげると上体にくっつけるようにする。
普段は隠している和泉の大事な部分が明るい場に晒され、和泉はその羞恥に声をあげた。
「む、むり! 恥ずかしいから!」
「大丈夫、見ないから。ほら、自分で膝裏持て」
「……む、りだよ」
そう言いつつも大人しく膝裏を持ち、今の状態をキープする和泉。
満足気に吉原は微笑むと、チャックをおろして自身を取り出した。
和泉の痴態を見ているだけで大きく膨張した自身は濡れており、先端が明かりに当たっていやらしく光る。
そのまま自身を手で持ちながら、吉原は和泉の太ももに擦り付けるように動かした。
「蓮、素股するからしっかりと力入れとけよ。あ、素股ぐらいわかんだろ?」
「わ、わかる、けどっ」
「じゃあ入れるぞ」
ぬる、と太ももで作られた人工的な場所に吉原自身が入っていく。
太ももといえども熱くて脈打つものに刺激されれば、和泉も変な気分になってくる。
秘部に入れられた訳ではないのに、犯されているようだ。
吉原自身と和泉自身が重なるような位置にすると、吉原はゆっくりと腰を前後に揺らし始めた。
動く度に吉原と和泉の自身から出る先走り液が絡まる音がする。
吉原の熱い自身が和泉自身を刺激して、和泉は堪らずに嬌声をあげた。
普段意識もしたことのない太ももも、こんな風に刺激されれば性感帯のようになる。
ぐちぐちと粘着質な音を立てながら、吉原は腰の動きを速めさせた。
「は、ぁ、っん……ん! りゅっ、せ……!」
駄目だ、達してしまいそうだ。
そういった意味を込めて吉原を見上げる和泉。
既に吉原も限界に近いのか、眉を寄せて小さく声を漏らす。
速まる動きにお互いの荒い息遣い、吉原の汗が和泉の頬に落ちたのと同時に、和泉は達した。
吉原は和泉の膝裏を掴み強く寄せ、締まりを自ら良くさせると何度か前後に動かし、和泉の後を追うように絶頂を迎えたのだった。
はあはあ、と息を出す吉原。
和泉の膝裏から手を離すと前髪をかきあげ、ふうと声を漏らした。
「蓮?」
「……ん」
「疲れたのか? シャワー浴びるけどお前はどうする?」
「あ、とで」
「……え? 浴びたい? しゃあねえなあ〜オレが洗ってやろう。光栄に思えよ」
「え!? ちょ、ま、まって!」
酷いデジャビュを感じる和泉だが、疲れきった身体は暫く自分の意思ではあまり動かなさそうだ。
吉原に抱き抱えられると、無理矢理お風呂場へと連行されていったのだった。
それから和泉は吉原に身体を洗ってもらい、すっきりさっぱり綺麗になった。
甲斐甲斐しく身体を拭いてくれたり、パジャマを着させてくれたりしてくれる吉原を見ていたら、喉まででていた文句も引っ込んでしまう。
本当は勝手に指を入れたことなどをいびろうと思っていたのだが、やめておこう。
けだるい身体を休ませるためにも、和泉はソファへと横向けになって寝転んだ。
視線の先にはタオルで頭をがしがしと拭きながら、テーブルの前に立っている吉原の姿。
なにをしているのか聞こうと思って声をあげようとした和泉だったが、吉原が椅子に腰掛けるのを見て出かけた声が引っ込んだ。
あまりに濃い情事をしていたのですっかりと忘れていたが、本来ここにはお弁当を届けにきたのだ。
吉原はお弁当を広げて、箸をしっかりと握っている。
見たいけれど見たくない、ぎゅっと目を瞑る和泉に軽く笑みを零しながら吉原は言った。
「れーん、食べるぞ」
「わ、わかってるから」
「いただきます」
色とりどりのお弁当をしっかりと目に焼き付けた吉原は、卵焼きに箸をつけ口に含んだ。
少し塩味が効きすぎる卵焼きだったが、和泉が吉原のために作ったと思えばそれは世界で一番の卵焼きになる。
じいんと感動をしながらも、味を忘れないように噛み締める。
数日前、水島が言っていたことが理解できたような気がした。
きっと和泉は料理の練習をするために水島の部屋へと行ったのだろう。
そこに望月がいた理由も、それならしっくりとくる。
先ほど窺い見た和泉の指先は料理で傷付いたであろう傷でいっぱいだった。
そこまでして作ってくれた料理が嫌だと感じる訳がないだろう。
一つ一つをゆっくりと咀嚼しながら、吉原は遅めの晩ご飯を食べるのだった。
「ごちそーさん」
空になったお弁当箱。
和泉が丹念込めて作ったお弁当は全て吉原の胃へと収まった。
満足そうにお腹を数回叩き、立ち上がる吉原に和泉はびくりと震える。
吉原が和泉を見れば顔をうつ伏せにしたままの姿があった。
恥ずかしいのかそうじゃないのか、どちらにせよ顔が見たかった吉原は和泉に近寄るとソファの前でしゃがんだ。
つやつやと輝く髪を撫ぜれば、ゆっくりと顔を見せてくれる和泉。
真っ赤になった頬に吉原を窺うような和泉の瞳。
ふ、と笑みを零すと、吉原は和泉が待ち望んでいるであろう言葉を紡いだ。
「すっげー美味かったよ。ありがとな」
「……う、ん」
「また作れよ。いくらでも食うからよ」
「き、気が向いたらね!」
「……もうちょっとで暇んなるから、それまで辛抱してろ。そしたらいっぱい構ってやる」
「……べつに、い、い」
「素直になれ、素直に」
「うるさいっ!」
「れーん蓮蓮、蓮ちゃーん」
わしゃわしゃと髪の毛を犬のように掻き回される。
振り払おうと腕を上げた和泉だが、あまりに楽しそうな表情を吉原がしているので振り払おうにも振り払えないではないか。
仕方なく抗議をするような目つきで睨み、和泉は精一杯の虚勢を張った。
本当は嬉しくて嬉しくてどうしようもないのだ。
素直に言葉にすることはないが、ここ最近寂しさを感じるばかりの日々だった。
だけど、もうすぐでそれも終わる。
嫌だというほどに構い倒してほしいと願う和泉。
毎日膨れ上がっていく想いに戸惑うこともなくなった今、和泉は心の中だけは素直になっていた。
和泉を撫ぜる優しい手も、抱きしめてくれる力強い腕も、待つことなくいつでも感じられるようになる。
吉原が言った一言でテンションのあがった和泉は、目を細めると大人しく吉原の手を受け入れた。
そっと頬を撫ぜる指、そのまま口元に移動すると和泉の唇を緩く刺激する。
見上げてくる和泉の瞳があまりにも純真だったので、吉原の悪戯心は引っ込んでいった。
「……よっしー、ほんとに、暇になる?」
「ああ、暇になる。あと予算の調整だけだからな」
「ふーん。……そっか」
「したらいっぱい泊まりにこい。ご飯も作ってやるし」
「……考えとく」
「ま、今はそれで良いか」
吉原に抱き寄せられて、温かな体温に包まれる。
和泉も吉原の背中へと腕を回すと、自ら抱きしめるように力を入れた。
どくどくと規則正しく鳴る鼓動の音。
気持ち良さげに目を細める和泉の額に、吉原は唇を寄せるとぎゅっと抱き返した。
甘くてとろけそうな恋人との時間。
それが今の吉原には必要なものであり、日常の中にある癒しでもあった。
いくら疲れていようとも眠くとも、和泉が側にいてくれるだけでそれが嘘のように解消されていく。
改めて和泉への想いを再確認しながら、吉原もそっと目を瞑った。
今日は直ぐに眠れそうだ。
暖房のついた温かい部屋で、和泉と吉原はお互いの体温を感じながら気付かない内に眠りにつくのだった。