乙男ロード♡俺は腐男子 42
 良い雰囲気だったものの、直ぐことをすますにはいろいろとしていないことが多すぎる。
 和泉と吉原はスーパーに寄ってから、吉原の家へと入っていった。
 純和風の家に住んでいる和泉とは違い、吉原の家は洋風だ。
 吉原の両親の趣味なのだろうか、少々乙女チックな外観に庭。 玄関には小ぶりのシャンデリアが天井から吊るされていた。
 辺りをきょろきょろしながら中に入る和泉。 スーパーで買った食材は全て吉原が持ってくれていた。
「お、おじゃまします……」
「んな緊張すんなよ。今、誰もいねぇんだし、夜はなげーよ?」
「わ、わかってるし!」
 つるつるとした廊下を進み、白を基調とした綺麗なリビングにいく。 そこもどこか西洋チックで、花柄をモチーフとした家具が適度に置かれてある。 あまりにも吉原とはミスマッチだ。
 思わず凝視する和泉に気がついたのか、吉原は苦笑いを零した。
「それ、母さんの趣味。オレじゃねーよ」
「へえ。そういえばよっしーの両親ってなにしてんの?」
「親父が医者。母さんは看護婦」
「じゃあ職場結婚なんだね。兄弟いるの?」
「ああ、兄貴が、いるけど……お前とは合わせたくねぇな」
「なんで!」
「まあ、いろいろと、な。……ちょっと心配だし。つーか手伝う? ケーキはしめな」
 ごそごそとキッチンで用意をし始めた吉原。 今晩はイヴとあって、いつもより豪華な食事だ。
 流石に七面鳥は用意できなかったが、それなりにクリスマスっぽい食事は用意した。 チキンとピザ。 チキンは揚げるだけで済むし、ピザは買ってきた生地に具材を乗せて焼くだけだ。
 それにシャンパンを用意すればもう完璧だろう。 ケーキは予め吉原の母が用意してくれているようだし。
 飾りつけもツリーもないけれど、それなりにクリスマスは演出できる。 次第にわくわくと高揚してくる気持ちに、嬉々としながら和泉は吉原に近寄った。
「んー? ちょっと時間かかるぜ」
「知ってる……」
「なに? 珍しいな」
「……たま、には?」
 ピザの用意をしている吉原の背中。 ふとした衝動にかられて、和泉はその背中に抱きついた。
 これが逆ならば、肩越しから手元を見られたりするのが、如何せん和泉の身長は低い。 ただ背中に頬を寄せると、吉原の体温を感じていた。
 そのまま器用に吉原は食事の用意をした。 吉原が動くたびに和泉もくっついて移動する。
 手伝う気など更々ないのだが、少しくっついていたい気分なのだ。 吉原もなにも言わず、それを受け入れるだけ。
 こうして少し準備に手間取りながらも、二人だけのクリスマスパーティーの準備が仕上がった。
 アンティーク調のテーブルには吉原お手製ピザと、チキン。 そしてシャンパン。 ケーキもある。
 育ち盛りの男子高校生には少々物足りなさも感じる量だったが、あまりに食べ過ぎるとその後に支障をきたすので少しだけ軽めの食事となっている。
 吉原と和泉は対面に座ると、シャンパングラスを傾けて乾杯をした。
 お酒がほどほど飲める吉原と違い、和泉はあまり飲まない。 未成年なので当たり前のことなのだが、たまには良いだろう。
 和泉は嗜む程度だけにすると、後はジュースですました。 お酒で酔っ払って寝てしまうことになれば大変なのだ。
 ぽつり、ぽつり、と紡がれる会話。 いつもより少ない言葉だったが、心地好い空間だ。
 どちらかというと食事優先のパーティも終盤に近付き、二人は少し小さめのホールケーキをつつく。 二人故にナイフで取り分けることもせず、そのままフォークで食す。
 有名ブランドのケーキなのだろうか、生クリームがくどすぎず、すっと溶けていくような食感。 イチゴも甘く、だが少し酸味があるので甘いケーキと相性がとても良い。
 思わず緩むほっぺたに、和泉はご満悦でケーキをばくばくと口に放り込んだ。
「あーもう、蓮、クリームついてる」
「え? ほんと? でもいーや」
「とってやろうか?」
「……遠慮しとく」
 その言葉の意味を理解した和泉は少し頬を赤らめると、布巾で顔を拭った。 残念そうな吉原が見える。
 カチャリ、と先にフォークを置いたのは吉原。 何事かと顔をあげる和泉に、真面目そうな顔つきをしている。 そうして少し照れた様子で差し出されたのは小さな箱。
 やはり、というべきかやってきた時。 和泉はそれを凝視すると、気まずそうに口を開く。
「あ、の、俺、ない……んだけど」
「ん? ああ、別に良い。これは、オレがあげたくてあげるだけだし」
「……ごめん」
「良いって。それより開けろ。気に入るかわかんねぇけど」
 おずおず、といった様子で和泉はその箱を手に取ると、丁重に巻かれたリボンを解いた。
 白色の箱から出てきたのは銀色のネックレス。 細い長方形をしたペンダントトップがきらりと光る。 ペンダントトップの先には小さな琥珀色の石が埋め込まれてあった。
 思わず指でなぞれば、テーブルの向こうから伸びてくる手。 和泉の手を握ると、緩い笑顔を見せる。
「それ、トパーズ。お前の誕生石な。望月に聞いたんだけど、先月誕生日だったんだろ? オレ知らなくてよ。遅くなったけどそれも兼ねてんだよ」
「あ、ありがとう」
「来年はちゃんと誕生日も祝おーぜ」
「う、ん」
「それと、……いつか、オレがな、自分で働いた金で指輪買うし、そんときは、な……受け取れよ」
 ぎゅ、と握られる手の甲。 和泉は少し緩んだ涙腺に、唇を噛み締めるとただただ頷いた。
 まさか自分がこんなことで泣きそうになるなどとは夢にも思わなかった。 嬉しくて泣く。 本当にあるのだ、そう思う。
 和泉は吉原からもらったネックレスを大事そうに握り締め、微笑んだ。
 そのときがいつになるかなどわからないけれど、それを受け取れる日がくると良い。 そのときになるまで、吉原の隣で笑えていたら良い。
 和泉の隣には吉原がいて、吉原の隣には和泉がいる。 それが当たり前のような日々。 きっといつかくるだろう。 そう信じて、吉原は和泉の指先に口付けた。
 それからケーキを食べ終えた二人は片付けに入った。 といっても片付けはほぼ吉原がして、和泉はその間にお風呂に入ったのだ。
 ここまでくればいやでも実感する。今夜とうとう吉原とするのだと。 決して嫌な訳ではないが、物凄く緊張する。
 和泉は吉原に言われた通り、お風呂からあがると吉原のパジャマを着て、吉原の部屋で待っていた。
 チクチクと鳴る時計の音。 今頃吉原はシャワーでも浴びているのだろうか。 待たす方より、待たされる方が緊張も増すかもしれない。
 吉原からもらったネックレスを装着すると、緊張を解すために少しだけ持ってきたシャンパンを口に含んだ。 甘みのある味と、少しの苦味、そして炭酸が口の中に広がる。 それをちびちびと飲み続ければ徐々に身体が火照ってくる。
 少し緊張が緩んだ気がして、和泉はほっと息を吐いた。
 いくばくかシャンパンを飲んでいれば、扉の開く音。 目をそちらに移せば、がしがしと乱雑に髪の毛を拭く吉原の姿。
 がちり、と身体が固まる和泉。 それを見て吉原は微笑むと、横に腰掛けた。
「シャンパン飲んでんのかよ」
「……う、うん」
「美味しいか?」
「た、ぶん」
「そんな緊張すんなって……」
 和泉の持っていたシャンパングラスを奪うと、吉原はそれを口に含んだ。 ゆったりと流れるような時間。 和泉はそれをじいっと見ていたはずなのに、吉原が起こす行動についていけなかった。
 吉原はシャンパンを口に含んだまま、和泉に口付けた。 口内で温くなったシャンパンが吉原の舌を通じ、和泉の口内へと流れ出す。
 思わず押し返そうとした和泉だったが、それは叶わず反射的にごくりと飲み込んでしまった。
 それを見届けると、吉原は和泉の上顎を舌でなぞり、開いている手でリモコンを押して照明を落とした。 そして器用に間接照明をつける。 恥ずかしくない程度の灯りに、和泉の緊張もいくばくか落ち着いた。
「ん……」
 ぬるり、と和泉の口内を味わうように吉原は舌をぐるりと回すと舌を引き抜いた。 間近で見る和泉は頬を紅潮させて、息を整えている。
 今夜、とうとうなのだ。
 吉原は緊張を和らげるように和泉の身体を抱きこむと、そっとベッドへと移動した。
 どさりと寝かされる和泉。 それを認識する暇を与えてもらえずに、吉原は和泉の首筋に舌を這わせた。 肌より熱い舌が首筋をなぞり、その感触にびくりと身体が跳ねる。
 思わず出そうになった声を必死で我慢しながら、シーツをぎゅっと握る和泉。 そんな和泉に気付いていながらも、吉原は首筋にキスマークをつけた。
 ちくり、とした痛みを伴って色づく赤い痕。 見上げればいつもより余裕のない表情をした吉原がそこにはいる。
「蓮、すきだ」
 ふ、と息を吹きかけるように耳元で紡がれる甘い艶言。
 ひくりと鳴った喉。 和泉はなにかを確かめるように吉原の首に手を回した。
 また落ちてくる吉原の唇。 それを受け入れるのと同時に、指先が和泉のパジャマへと移った。
 ぷつり、ぷつり、とゆっくり外されるボタン。 口腔は吉原に犯されているというのに、意識はパジャマにちらついてしまう。
 全て外されたボタン。 ひんやりとした外の空気に触れる。 思わず身震いした和泉だったが、寒さに晒された肌は直ぐに吉原の手で覆われてしまった。
 ゆったりと、肌を這う掌。 和泉の少し貧弱な身体を、吉原の長い指先が這い回る。
 確信的な場所に触れられていないのに、和泉の身体は敏感になる。 脇腹を触られるだけで、ぞわりとした感覚が襲った。
 先ほど十分といえるほどシャンパンを飲んだというのに、緊張の所為かすっかりアルコールは抜けてしまっていた。
「蓮、……かわいい」
 唇を離し、艶めいた表情で吉原はそういうと、その唇を滑らせるように下降させていく。 喉、首筋、鎖骨、なぞるようにおりる舌に、期待で震える身体。
 吉原の唇が和泉の胸の突起に触れた瞬間、和泉は喉を仰け反らせた。 少し大袈裟すぎる気もしたのだが、焦らされた分と期待していた分、快感も大きい。
 吉原に何度もここが気持ちの良い場所だと教えられていたためか、和泉の突起は十分に性感帯になっていた。
 そのまま啄ばむように唇で挟み、ちう、と吸い上げる。 和泉はその感覚に耐え切れなくて、吉原の髪を掴んだ。
「あ、ぁ……や、だっ」
 気持ちが良すぎて変になりそうだ。 和泉は頭を振りながら、必死に理性と戦う。
 そんな和泉に愛惜する気持ちがぐっと高まった吉原は、壊れものを扱うように唇で愛撫する。 下唇で緩く刺激を与えたり、歯で軽く噛んでみたり、少し強く吸ってみたりする。
 もう片方の突起も寂しくないようにと、指先で弄ってやれば、和泉は面白いように跳ねた。
 吐息に色が出て、声に艶も出る。 徐々に染まる胸。 吉原は興奮を覚えると、逃げ出そうとする和泉の身体を押さえつけて、貪るように刺激を与えてやった。
「ン、んぅ……っあ、あ、よっし……!」
 くしゃり、と吉原の髪を握る手に力が込められる。 羞恥などもはや感じている余裕もなく、ただ迫りくる快感の渦に巻き込まれるのみ。
 和泉は下肢を揺らすと、吉原の名前を何度も呼んだ。
 赤く熟れてきた胸の突起。 じんじん、と鈍くなる。 少しの刺激でさえ、今の和泉には甘い毒のように感じられる。
 ほろり、と快感故に零れた涙に気付いてはいないはずなのに吉原は唇をそこから離した。
「蓮、ほら、違うだろーが?」
 すっと唇を撫ぜる指。潤んだ瞳で見上げれば、いやらしい表情の吉原。 首を傾げるだけの和泉に、吉原は直ぐに答えをくれた。
「名前、呼べって」
「……りゅ、せい」
「そう。良い子」
 横に流れた涙を舌で拭い、吉原はまた愛撫をするために手を動かす。
 ないはずの胸をふに、と持ち上げられ、曖昧な感覚に、は、と息を漏らす。 焦らすように突起の周りをなぞる指に、口走ってしまいそうになった。
 弄られすぎたそこはじんじんと熱を持っているのに、触られていないことに覚える違和感。 微かな痛みを齎す愛撫でも、触ってくれていないと気が変になりそうだ。
 和泉は吉原の伸びた髪を強く引くと、目で合図を送る。
「や、だ……」
「なに? どうした?」
「りゅう、せい……!」
「……ここだけで、足りんの?」
 ちょい、とだけ摘むような仕草で突起を弄られる。 途端に広がる甘い電流に、びりびりと背中がしなる。
 吉原は片手でそこを弄りながら、唇を肋骨付近に落とすと、キスマークをつけながら下げていく。 へその周辺をちろちろと舐めあげられ、こそばゆいような感覚。
 はふ、と息を漏らした和泉に気を良くした吉原は開いている手でズボンとパンツをずらした。
「あ、ま、って……み、みないで!」
「もう、こんな勃ってんの? 蓮、やらし」
 やらしいのはどっちだ。 そう言いかけて、噤んだ。
 気がつけば身体を起こしていた吉原は、楽しそうに和泉のズボンとパンツを下肢から取っ払う。 身に着けているのはパジャマの上のみ、というなんとも不格好な姿になってしまった。
 ひんやりとした空気に触れて、羞恥をもってきたようだ。 和泉は堪らずに膝を合わせると、和泉自身を隠すようにした。
 だが、相手は吉原だ。 吉原の方が力も強いし、和泉が身体を許してしまうほどの相手。
 長くて綺麗な指先がゆっくりと太ももの裏を這い、膝裏をしっかりと掴む。 そしてぐっと左右に開くようにされれば、和泉の力は弛緩する。
 その隙を狙い、吉原は思い切り左右に押し広げると、和泉が足を閉じられないように身体を滑り込ませた。
「あ、あー! や、やだ! むり!」
「ん? なんで、良く見えんじゃん」
「そ、それがいやっ!」
 和泉のふくらはぎを掴み、そっと唇を寄せる。 ちゅ、という音を立てて、徐々に競りあがってくる羞恥と比例して吉原の唇も上がる。
 巧みに和泉が足を閉じないように身体を後ろに下げながら、唇を足に沿うように移動させる。
 つつ、舐めあげるのはどこか。 既に太もも辺りまで舌が這い上がり、その先にあるものを考えれば今からされることも容易に想像ができる。
 思わず抵抗しようと足に力を入れるものの、吉原がそこを甘く噛めば緩い快感にびくりと跳ねる身体。 抵抗しようと元気だった足も、快感の前ではなす術もない。
 和泉がちらり、と視線を下に向ければ、自身の勃つ様と、吉原がいやらしく太ももを舐める様子が見て取れる。
 ぐぐぐ、と一気に上昇する体温。 今なら羞恥で気絶ができそうだ。
 だけどもいったりきたりと太ももで止まってしまった舌に、和泉自身が期待をするのも事実。
 とろり、と先端から流れる先走り液。  動こうとはしない吉原。 羞恥よりも快感が勝った和泉は、おずおずといった様子で手を伸ばすと、吉原の髪の毛を掴む。
「りゅ、……も、……」
「もう? なに?」
「……っ、そ、こじゃ、なくて」
「言えよ。ほら、してやるから。……蓮の口で、なにをしてほしいのか、言えるだろ?」
 和泉自身の根元にちゅう、と吸い付く吉原。 こういうときばかり意地悪になるのは吉原の仕様なのか。
 泣きそうになりながらも、和泉は言わなければならない。 それを望んでいるのは、和泉なのだから。