紡ごうと薄く開けた唇が、ふるふると震える。
喉になにかを引っ掛けたように、言葉がでてこない。
言うべき言葉はわかってはいるのだが、羞恥が邪魔をするのだ。
思わずひくり、と鳴る喉。
目の先の吉原は依然として、いやらしい表情のまま和泉自身を舐めようとはしない。
意地悪だ。
意地悪なのだけれど、どうしようもなく好きなのも事実だ。
和泉は観念すると、蚊が鳴くような小さな声で、言葉を紡いだ。
「……な、なめ、……」
「なめ?」
「……て」
「……どこを? って聞いたら、お前泣きそうだな」
ふ、と人好きのする笑みを浮かべると、吉原は和泉自身の先っぽに優しくキスをした。
その些細な感触に、ぴくりと脈打つ自身。
吉原はわざとらしく舌を出すと、どくどくとなっている和泉自身に舌を絡ませた。
熱を持っているのはお互い様だというのに、その感触が酷くリアルになるのは何故なのだろうか。
和泉はダイレクトな刺激に、ぎゅっと足を閉じるような仕草をしてみせた。
足の間には吉原の顔があるので、閉じられはしなかったが。
襲いくる強い快感。
吉原に何度かされたことがあるが、未だに慣れない。
というよりは慣れることなどないだろう。
吉原の熱い舌が裏筋を舐めあげ、先端を軽く歯で刺激する。
そうされれば快感に疎い和泉は一気に絶頂へと上り詰めるのだ。
最後の抵抗というように強く唇を噛み締める和泉。
だが和泉を気遣うことはおろか、序盤からハイスペースな愛撫に叫びそうになる。
「ぁ、ン……っ! ふ、っぅ……」
噛み締めた唇から漏れる和泉の淫声に、吉原の興奮も増す。
躍起になって和泉の口から淫声を出させようと、和泉自身への刺激を強めた。
反り勃った和泉自身を全て口に含むと、顔を上下に動かす。
口を窄めて吸うように動かせば、和泉の太ももがぴくぴくとし出した。
「ンっ、んん……っふ、ん!」
限界が近いのだろう。
必死に快楽と戦う和泉は、右手でシーツを強く掴み、左手は口元を押さえている。
徐々に大きくなる快感の震えと、硬度を増す和泉自身。
吉原は絶頂を促すように先端を強く吸い上げた。
その刺激に、ぎりぎりのところで踏ん張っていた和泉も呆気なく崩れ去り、吉原の口腔へと白濁を出したのだった。
「ふ、は……ぁ、はあ……」
肩で大きく息をする和泉。
吉原は見せ付けるように和泉の出した白濁を飲み込んだ。
途端、頬を朱に染める和泉は、力なくして吉原をきっと睨みつけた。
「の、飲むなよっ!」
「なんで? 蓮の、だろ?」
「の、飲むもんじゃ……ない、じゃん」
「かわいい」
「は、はあ!?」
べろり、と和泉の頬を舐め上げた。
吉原は愛しいものを見るような目で、和泉をじいと見る。
こつんと額を合わせて、最終確認。
吉原はベッドサイドに置いてあるローションを手に取ると、和泉の頬を緩く撫ぜた。
「なるべく痛くねぇようにするし」
「……う、うん」
とろり、と透明の液が吉原の掌に流れる。
吉原はそれを掌で馴染ますように温めると、指につけて和泉の秘部へと擦り付けた。
その感覚に和泉はびくり、と身体を竦ませると、不安げな表情で吉原を見上げた。
不安で仕方がない、といった表情をされれば吉原も少し不安になる訳で。
吉原はいくばくか悩む素振りをみせると、掌に馴染ませておいたローションを全て和泉の秘部へと擦り付けた。
お陰で和泉のそこはどろどろの状態となったのだ。
「蓮、オレを見ろ」
「え?」
ふい、と顔を上げれば吉原と目が合う。
そのまま数秒、見詰め合っていると吉原の指が和泉の中へと進入してきた。
ローションのお陰か、以前から慣らしておいたお陰か、どちらかは定かではないが、そこは思うより抵抗少なく、吉原の指を受け入れた。
多少気持ちの悪さも伴っているが、違和感がある、程度だ。
そこをゆっくりと解すように指を動かしだした吉原。
ぬちぬちと和泉にとっては不快感を煽るだけでしかない音が響く。
思わず怖くなって、和泉は吉原の腕を掴む。
吉原が見れば、少しだけ泣きそうな表情をしている和泉がいた。
「どうした?」
「……手ぇ、……つないで」
「ローションで汚れてるけど、良いか?」
「うん、だって、今からもっと汚れるんでしょ?」
和泉はあまり深いことを考えてものを言ったとは思えない。
現に和泉の表情は純粋である。
だが、吉原はその言葉で下半身がずくり、と反応した。
元々和泉の痴態で些か窮屈な思いをしていたのだが、今の言葉でもっと窮屈になった。
きっと下着は汚れているのであろう。
ゆっくりと慣らしていたはずの指は凶暴さを相俟って、和泉のそこを犯しだした。
急に強くなる愛撫に、和泉は思わず淫声をあげる。
ぐ、と二本になった指。
ゆるりと中を掻き回すと、性急に和泉の良いところを探り始めた。
「ぁ、あっ……は、やっ、い……!」
吉原が指を動かす度に、和泉の小さな身体は揺れる。
吉原の温度を探すようにさ迷っていた掌を、空いている方の手でぎゅっと握り締めた。
上の方から快感に歪む和泉の顔を見るのも楽しいが、それだけではなにかが足りない。
吉原の愛撫で悶えている和泉。
時折握られた手に力が篭る。
それに酷く興奮と、愛着を覚えた。
二本の指でぐちゃぐちゃに掻き回されている和泉の中。
和泉の良い場所を上手く捉えると、和泉の身体が大きく跳ねた。
場所は覚えた。
ここを重点的に攻めれば、和泉は快感を覚えるのだろう。
吉原はそう思うといてもたってもいられずにそこを重点的に攻めだすと、嬌声を上げ始める和泉の唇を己の唇で塞いだ。
暖かくなるだろうと踏んで暖房は入れなかった。
現に熱の上がった二人には少しこの部屋は暑いぐらいに感じている。
じんわりと滲む汗、和泉自身の先から滲む先走り液、和泉の秘部はローションでぐちゃぐちゃだ。
おまけに繋がれている手もローションでぬちりとしている。
逃げ惑う和泉の舌を捉えて、思い切り吸い上げる。
吉原のそんな強引なキスに、お互いの口から零れる唾液。
くちゅくちゅという音にさえ羞恥を覚える暇などない。
それほどに和泉は熱に浮かされている。
中に入っている指が三本に増え、和泉の秘部を荒々しく突く。
激しいキスのお陰か、それとも他の理由があるのか、すっかり弛緩した和泉の身体。
吉原を限界まで受け入れると、しつこく絡む舌に根を上げた。
先ほどから感じるのは吉原という存在のみだ。
和泉はどこかで感じていた恐怖すら忘れるほどに、吉原に溺れきっていた。
ただ夢中になってキスをして、どろどろに汚れていく二人。
確かめるように和泉が手に力を入れれば、それに答えてくれる吉原。
胸がどくどくと煩い。
ぎゅっと締め付けられる感覚は愛しさ故か、和泉は今なら素直になれるような気がした。
和泉の秘部に入っている三本の指が馴染むころ、吉原はそれを中から引き抜いた。
ぐちゃぐちゃに掻き回した所為か、引き抜く際にローションが糸を引く。
その様はなんとも言い難いほど、いやらしい。
「蓮、……オレも限界だ」
吉原はそう言うと、着ていたティシャツを脱ぐ。
現れたのは均等のとれた身体。
それをどこかぼんやりとした表情で見つめる和泉。
今から行われることを理解していない訳ではないが、あまりに激しかったため頭がついていかない。
和泉はただ吉原の行動をじっと見るだけ。
ズボンとパンツを中途半端に脱いだ吉原から飛び出したのは、限界まで張り詰めた吉原自身。
和泉の痴態を見たからか、先走り液でてらてらと濡れていた。
「りゅ、せ……」
「あ? なに?」
「……すき」
あどけない表情でそう言った和泉。
素直じゃない和泉が自ら愛を紡ぐなど珍しいことだ。
吉原はそれに答えるように和泉の手をとって、手の甲に口付けを送った。
「それ、……ずっとつけてろよ」
「……うん」
「いつかぜってーオレが指輪やるから、それまで指輪つけんなよ? あ、ネックレスもそれ以外つけんな」
「アクセサリー、すきじゃないし、……つけないよ。でも、柳星が、くれたら、……つける、けど」
「……あーそう。お前ってほんと、オレを煽んの上手だよな。これ以上メロメロになったらどうすんだよ」
「はは、責任はとるよ」
「……一生な。絶対責任とれよ」
だらりと力の抜けた和泉の膝裏を持つと、上体につけるように倒した。
和泉の秘部が良く見える体勢に、和泉は頬を赤く染めたが抵抗する素振りはない。
本当の本当に、とうとうきたのだ。
吉原は勃起した自身を和泉の秘部に擦り付けるような仕草をすると、ぐっと力を込めた。
ローションでどろどろになったそこは吉原自身の先端を受け入れる。
ず、ず、とゆっくりと中に入っていく吉原自身。
良く解した所為か想像よりはスムーズに入るのだが、痛みも想像以上だ。
和泉はぐっと歯を食いしばると、シーツをきつく握った。
我慢できない痛みではないのだ。
吉原は自身を途中まで挿入し終えると、残りは貫くように一気に突き立てた。
余りの強い衝撃に、和泉は声にならない声をあげると、痛み故に涙が零れた。
頭がちかちかする。
そろそろと、目を開けて視線をずらせば、繋がっている部分が見えた。
「……りゅ、せ」
「痛い? 大丈夫か?」
「へ、平気、……かな……」
「じゃあ動いても良いか?」
「……う、ううん……ま、待って」
吉原は抱えていた膝裏から手を抜くと和泉の足をおろし、楽にさせてやった。
そのまま空いた手で和泉の肩を抱きこむ。
密着する肌。
お互い汗で湿っているが、触れ合うことに不快感などない。
和泉も吉原の首へと腕を回すと、ぎゅっと力を込める。
それが合図になったのか、吉原は緩く腰を引くと律動をし始めた。
中が吉原自身の大きさに馴染むまで、ゆっくりと上下に腰を揺らすだけ。
最初は痛みを持っていたそこも、次第に慣れたのか痛み以外のものを感じるようになっていた。
ぐっと寄せられていた和泉の眉間の皺が緩む。
小さく漏れ出した声が吉原の耳元に届いた。
色をもった淫声になるころには、吉原の腰の動きはスピードを増していた。
パンパン、と肉のぶつかる音が響く。
ローションで慣らしたお陰もあってか動きはスムーズだ。
次第に余裕を持ち始めた吉原は和泉を焦らすような動作に変えると、わざと前立腺を外し、そこに当らないように動いた。
「ぁっ、あ……は、っせ……りゅ、せっ!」
首に回された手に力が篭る。
前立腺を刺激されないことがもどかしいのか、和泉の淫声に泣き声が混じった。
焦らしてやるのは可哀想だと思う反面、もっと虐めたいと思う心もある。
和泉が泣きそうになればなるほど、吉原の中の淫虐心がひょっこりと顔を出した。
だが、吉原の髪の毛をぐしゃりと掻き回す和泉の手に絆されるのも事実。
吉原は淫虐心をそっと引っ込めると、和泉が望むように前立腺に先端をあてがい、擦りあげるような動きに変えた。
待ち望んだ快感に和泉は大きく震えると、惜しげもなく痴態を曝け出してくれる。
だらしなく開けた口からはひっきりなしに嬌声が漏れ、口端からは唾液が伝う。
泣き顔交じりのぐちゃぐちゃに汚れた和泉の顔。
それに愛しさがぐっと増す。
好きで好きで、本当に和泉が好きなのだ。
ここまでのめり込んだのは初めてかもしれない。
吉原はぎゅうっと締め付けられる胸に、少し泣きそうになる。
愛という気持ちで泣きそうになるのも、セックスでここまで感情が揺さぶられるのも、和泉だからだ。
和泉だからこそ成せる技なのだ。
繋がった結合部分から溶け出して、いっそうのこと一つになってしまえば、永遠に離れることはないだろう。
だがそれでは駄目なのだ。
離れているからこそ愛し合える。
それに意味がある。
人間は一人だから、良いのだ。
きっと二人が一つになってしまえば、もうなにも感じることなどないのだろう。
吉原はぐっと目を瞑ると、規則的に動かしている腰の動きを速めた。
そろそろ自身の限界が近い。
初めての和泉は未だ中の快感だけでは足りないだろう。
吉原は和泉自身を握りこむと、上下に動かし、一気にラストスパートをかけた。
「ぁあっ! あぁ、あ……っも、あっ、い、いくっ!」
ぎりぎりと爪を背中に立てられる。
些細な痛みに吉原は眉を顰めるが、その痛みすら愛おしい。
吸い寄せられるように唇を合わせて、何度も噛み付くようなキスをしながら、吉原は腰を動かす。
吉原の手の中でどくりと脈打った和泉自身が弾けて、一回目よりは薄くなった白濁を吐き出した。
絶頂を迎えた和泉は吉原自身をきつく締め上げると、大きな嬌声を出す。
しかしそれは吉原に口を塞がれていた所為で表には出なかった。
その衝撃で吉原も絶頂を迎えると、素早く和泉の中から引き抜いて、和泉の腹へと白濁と迸らせた。
はあはあと荒い息を吐く二人。
激しく動いた所為か、吉原の額には汗が滲み、それが粒となって和泉の頬へと落ちた。
そのままどさり、とベッドに身体を横たわらせると、同じく疲労して動けないであろう和泉の身体を抱きこんだ。
お互い汗やら精液やらでぐちゃぐちゃである。
だがそれを気にすることもなく、吉原は和泉をきつく腕の中に収めた。
「……あーっ、……幸せ過ぎて、やべーわ」
腕の中には荒い呼吸をして吉原に擦り寄る和泉。
この小さい存在が酷く吉原の心を揺さぶる。
明日から暫く会えないというのが今から辛い。
本当なら腕の中に閉じ込めて、和泉が嫌だというほど甘やかして、離してやらないのに、明日には離れ離れになってしまう。
たかが少しの期間。
そう言われればそうなのだが、心も身体も繋がった今、吉原はそれが酷く寂しく感じた。
くしゃり、と髪を撫ぜれば顔をあげる和泉。
その表情はどこか艶めいて見えた。
「……よ、っし」
「……よっし?」
「……柳星」
「なに?」
「……その、……ま、また、こうやって、……してくれる?」
「……誘ってんの?」
「ち、ちがう! 今は、も、いっぱいいっぱい……です」
「言われなくたってするぜ。もう毎日でもしてぇし。ずっとしてたい」
「そ、それは遠慮して、ほしいな、うん。……でも、その、……良かった、っていうか、その、幸せ、……だった」
「……ぜってぇ誘ってるだろ、それ」
吉原の気など知らないで、和泉は可愛い顔をして可愛い言葉を平気で言うのだ。
これだから堪らない。
大袈裟かもしれないが、今のまま時間が止まってしまえば良いのに、と思うほど吉原は幸せの絶頂にいた。
今ならなんでもできそうなほどだ。
少し反応をしそうな吉原自身だったが、和泉は初めてだったのだ。
流石にこれ以上、負担はかけられない。
吉原は必死で自身を宥めると、和泉の首筋に顔を埋めた。
もう少しだけ、こうしていたい。
それは和泉も同じで、二人はお互いの体温が馴染むまで、こうして抱き合っていた。
それから体液で汚れきった身体をシャワーで綺麗にしたのは、随分も後の話。
腰への負担が大きかった和泉は立つことができず、吉原に全てをしてもらった。
二人が綺麗になった身体で眠ることができたのは夜も随分と更けたころ。
疲れに疲れ切った二人は直ぐに眠りにつくことができた。
紆余曲折あってここまできた和泉と吉原だったが、やっと結ばれることとなったクリスマス。
一生忘れることなどない出来事として、ずっと二人の胸に刻まれるのであった。
こうして、和泉と吉原は有意義なクリスマス・イヴを過ごすことができたのだった。