あの後、望月に簡単なメールを送って和泉は吉原の部屋へと一緒に帰った。
繋いだ手の温かさと吉原の優しさにまた泣きそうになった和泉を、抱き締めてくれるのは吉原だけ。
言葉なしに歩いても、そこにある確かな愛に和泉の不安はもう消え去っていた。
本当は聞きたいことや言いたいことがたくさんある。
黒川はどうするのだとか、あのときはごめんとか、だけど部屋に入ってキスをされてしまえばもう言葉を紡ぐことはできなかった。
「ふ、あ」
壁に押さえつけられ貪るようなキスを受ける和泉。
両頬をしかと包み込まれた掌の強さに、抵抗すらままならない。
吉原はなにかを探るように和泉にキスをしかけると、その柔らかな唇の感触を味わっていた。
ふるり、と震える身体、濡れた舌は温かく小さな刺激に逃げ惑うだけ。
絡めとって吸ってやれば、舌と同時に身体もぴくりと反応した。
久しぶりに味わう口付けに酩酊に似たものを覚える。
吉原はただ開いた隙間を埋めるように呼吸すらできぬほどのキスに酔った。
「ん、ぁ、よ、っし……」
緩やかな快楽に頭がぼうっとする。
和泉ははふりと呼吸を漏らすと吉原の手首を握って目をうっすらと開いた。
ぼやけた視界には和泉を一心に見つめながら、深く求める吉原の姿。
愛おしいのだと、そう伝わる眼差しにどくりと反応するのは心だ。
ばくばくと煩く高鳴って、口付けをより深いものへとさせる。
強引に絡ませるだけだった吉原の舌に自らの舌も絡め、快楽を共有するように求めた。
吉原のキスを真似てする和泉からの口付けはたどたどしくも、吉原にとっては酷く心地好いものでもあった。
「ン、わり、限界……」
そういうやいなや、吉原は和泉を廊下に押し倒すと覆い被さったのである。
寝室やソファに行く時間ですら惜しい。
早く和泉を感じたかった。
和泉はここにいる。
吉原の腕の中にいる。
それを実感したいのだ。
うっとりと頬を紅潮させた和泉に聞く間すら与えずに、たくし上げた制服。
露になる肌は依然と変わらず白いものであったが、随分と痩せてしまったためにあばら骨が浮かび上がっていた。
「痩せ、たな……」
「……ご、めん、貧相で……たたない?」
「知らねえの? もう、こんな状態だぜ、オレ」
和泉の手を握り、己のズボンを押し上げ主張する自身を布越しに触らせる。
和泉の指先がそこに触れればまたどくりと脈を打った。
「あ……」
一瞬にして染まった頬が愛らしい。
相変わらず初心なままの和泉は些細なことにすら羞恥を覚えるようだ。
吉原をちらりと見上げると、もそもそと唇を動かしたのである。
「……よ、っし……俺も、柳星がほしい……」
ぎゅっと首に回す手が震えている。
恥ずかしそうに目を瞑った和泉の小さな勇気を無駄にできる訳もなく、寧ろ最初からそのつもりだった吉原はその言葉を経てそれ以上先に進む強引さを得たのである。
最初から和泉が嫌だと言おうとも今だけは和泉が欲しかった。
どうしてもやめられない理由があった。
だからこそ和泉も求めてくれているという心強い後ろ盾ができて、もう止めることすらできない。
初めて深くまで求められているような気がして、吉原はいつもより余裕なく和泉を求めるのだった。
「ァ、……っんん」
和泉の甘い香りがふわりと漂う。
吉原は和泉の首元に顔を埋めると唇を寄せた。
片手はたくし上げた所為で露になった胸元を撫ぜ、もう片手は和泉のズボンを脱がしにかかっている。
今日だけは時間をかけて愛しむということができそうにもない。
かちゃりという音を立て外れたベルトにこれ幸いというように吉原はパンツの中に手を突っ込むと、微かに反応している和泉自身をぎゅっと握り締めたのである。
「っ、や、ァ! りゅ、せ……ぇ」
ひくんと仰け反った喉元。
和泉は吉原に与えられる快感に浮つく腰を押さえ込もうとするものの、少し荒く手を動かされてしまってはどうすることもできなかった。
吉原は和泉の顔をじいと見つめながら、快楽に弱い裏筋や鈴口を擦り上げ、上下に動かす。
くちゅりと鳴った水音を聞かせるように動かすと、和泉の頬に朱が増した。
その間にも胸元に這わせていた手で突起を捕らえ、こねくり回すように刺激すればもう堪らないという表情をするのだ。
「ぁ、あっん! や、ゃあッ……りゅ、せッ! だ、めだめっ! そ、れ、やァア!」
痛いぐらいに突起を摘まれて引っ張られる。
まるで玩具を扱うような乱雑な動きだったけれども、和泉はびくびくと震えると感じてしまって仕様がなかった。
痛い中にある快楽が強い。
押し潰すようにされながらもぐりぐりと擦り上げられる。
爪で潰すように押されてしまったときは、思わず浮いた腰に羞恥が勝った。
突起を弄くり回される度に下肢がずくりと熱くなる。
漏れる息が荒く、霞む視界にあられもない声。
吉原が耳元で囁く言葉ですら、今の和泉には興奮剤にしかなり得ないのだ。
「ほら、蓮、押し付けてる……」
腰を高く上げ、吉原に自身を押し付ける和泉の行動を言葉にすれば、赤かった頬が更に赤みを増す。
「痛くされんの好き?」
鈴口を爪でぐりぐりと刺激してやれば、和泉は大袈裟に身体を跳ねさせる。
快感で零れた涙が頬を伝って、その綺麗な涙に吉原は胸を熱くさせた。
手荒く扱って、和泉が吉原を拒否しないことを確かめてしまう。
和泉はここにいるのに、またどこかへ行ってしまうんじゃないかって不安なのかもしれない。
優しくしたいのに今日だけはできそうにもない。
求める心が強いからこそ、指先が焦って和泉を求めるのだ。
「りゅ、せ……?」
首に顔を埋めて止まってしまった吉原に、和泉の声がかかる。
吉原はそのまま止まると、ぴたりとも動かなくなったのだ。
そろそろと背中に腕を回し、叩いてみれば勢い良く上げられた顔。
思わずびっくりしてしまった。
「……ごめん、ほんと余裕ねえかも」
「う、ん」
「終わってからなら苦情受け付けるし、……我慢してくれる?」
「……いーよ。好きに、しても」
なんて愛らしい台詞なのだろうか。
吉原はますます余裕というものが崩れ去っていくのをひしひしと感じてしまった。
和泉の足に纏わりつくズボンとパンツを急いで取っ払う。
ずるりと剥けた生足が妙に艶めかしく、吉原の欲をそそる。
痩せたことによって細くなった足がより一層卑猥に見えるのだ。
なめらかな肌を撫ぜ、内股に這わす手。
徐々にせり上がる感覚に和泉が唇を噛んだ。
既に勃ち上がった自身は吉原の手を待ち侘びるようにふるふると震えていた。
涙を零す入り口を擦り、スライドさせる。
一度イかせてしまおうと思いスピードをあげる手に、和泉は翻弄されるだけだった。
「ぁ、あんん! は、ッぁ、ぁあ!」
びくびくと打ち上げられた魚のように跳ねながら、きつく腕を握り締める。
和泉は高められれば高められるほどに霞んでいく脳内になす術もなかった。
吉原の指が荒く、強く和泉に触れる。
吉原の不安が増せば増すほど和泉は胸が温かくなった。
ここまで求められて嫌だと思う訳もない。
吉原にならばどんな形でも触れられれば反応してしまうのだ。
和泉は唇を噛み締めると、襲いくる快楽の波を抗うことなく受け入れた。
一歩一歩あがる熱に吐き出してしまいたい衝動。
どくどくと脈打つ自身が早くも限界を訴えて、和泉に急かすのだ。
吉原の手が裏筋をなぞり、先端を擽る。
まるで絞るようなきつい仕草で擦られてしまい、和泉は耐え切れずに身体を震わせると絶頂に達したのだった。
ひくひくと揺れて吐き出すのは白濁。
吉原の手を汚したそれはいつもより濃くて、絡みつくようにねっとりとしていた。
「蓮……可愛い」
頬を染めて快感の涙を零す和泉の頬を舐めながら、吉原は吐き出されたものを和泉の秘部に塗りつけた。
小さく鳴った音と共に侵入を果たしたそこは吉原の想像以上にきつく、狭い。
吉原の指を排除しようとぎゅうぎゅう締め付ける内壁に、構いもせず奥へ奥へと指を入れていく。
ぬめり気が足りないといえども、今の状況でローションを取りに行くほどの余裕はない。
和泉が痛い思いをするかもしれない、そうわかっているのに身体が言うことを聞かない。
吉原は苦痛に歪められた和泉の顔を見つつも、振り払われない手が愛おしくて仕様がないのだ。
絡めるように掌を重ね合わせば、和泉の顔が柔らかく綻ぶ。
「ぁ、あ……っ! ん、く、っう……」
「痛い?」
「へ、えき……ッ」
「嘘、痛そうな顔してる」
「……だ、って、ひ、さし、ぶり……」
「……蓮、ごめん。結構我慢の限界だわ」
「え、ぇっ! ぁ、あっあ!」
ぐるりと旋回をした指先に強い衝撃。
吉原は和泉の前立腺を押し上げると、早急に拡げるよう指の動きを変えた。
くちくちと音を立てながら上下に揺らす。
その指の動きに和泉は翻弄されるままだ。
背中を駆け巡る甘い電流に歯を食いしばり、耐えた。
ちかちかと白む視界に追いついていけない。
短く吐いた息に色が付いて、甘い艶声となる。
和泉は誘うようによがり声をあげると、吉原の掌をきつく握り締めた。
「ぁ、んん! りゅ、せっ! りゅ……せっ……や、だ! やだぁ」
「……なにが? やめて良いのかよ」
「ち、が……ッ! も、だめ……ほ、しぃ! いっしょ、に、なり、たァ……」
吉原が激しく指を動かす度に上下に揺れる和泉の身体。
頼りなくも小さくなってしまった和泉の身体に自由などない。
求めるように吉原に手を伸ばすと泣きそうな顔でそう言ったのだ。
我慢するより早く一つになりたいと。
不安でぽっかりと空いてしまった穴を埋めてくれるのは吉原しかいない。
和泉をここまで狂わせるのも、不安にさせるのも、そして愛おしくさせるのも全て吉原なのだ。
「蓮……」
苦しいほどに熱の篭った瞳で見つめられる。
和泉は吉原の髪の毛を引き、手前へと引き寄せると薄付きの唇に唇を重ねた。
ぺろりと舐め上げれば、心底驚いたような吉原の表情。
なんだかまぬけで笑えるものがある。
「ちょ、うだい。柳星の、全部、俺に頂戴」
吐息のような囁きに、吉原は嬉しそうに目を閉じた。
触れた指が微かに震えている。
なぞった輪郭を確かめるようにして、吉原は和泉の存在を指先で感じた。
「蓮も、全部くれんの?」
「……うん、あげる」
「返せ、って言っても、返さないからな」
「言わないよ、俺の全部、……柳星のだから」
「……ありがと、一生大切にするわ」
和泉の首元に手をやり、服の下で揺れていたネックレスを取り出した。
和泉の熱が移ったそれは生温かい。
和泉が別れてもなお手放さなかったもの。
二人を繋いでいたもの。
吉原は小さくそれを握り締めると手を離し、一度の触れるだけのキスを送った。
いつか、あの日に誓ったように大人になった自分たちが隣に居続けるのなら指輪を送ろう。
永遠の証を送ろう。
そのときになれば、一生離さないとそう誓うのだ。
なんてまだまだ和泉には言えないけれど。
小さく微笑んだ吉原に不思議がって首を傾げる和泉。
とぼけた振りをしてみせて、ズボンのスラックスから勃ち上がった自身を取り出す。
既に準備ができていたそれを数回扱いてから、和泉の秘部にぴたりとあてた。
「ン……」
和泉の膝裏をしっかりと持ち、ゆっくりと中へ収めていく。
気持ちばかり逸って一気に突き立てたい衝動に駆られはするものの、ただでさえ準備が足りない状況でそれをすれば和泉が傷付くのが目に見えていた分挿入するときだけは慎重になった。
きっと後から余裕なんてものはなくなってしまうのだ。
我慢できる分は優しくしてやろうとそう決めていた。
ず、ず、と少しずつ入っていくのにも関わらず和泉の中は窮屈だった。
まるで侵入を拒むかのようなきつさに顔をしかめるものの、吉原はそこでやめることだけはしなかった。
蠢く内壁が熱を持って吉原を包み込む。
馴染んだ動きにほっと息を吐く吉原と、唇を噛み締めて衝撃に耐える和泉。
先端が中に入ったこともあって、後は押し込むようにずんっと深くまで突いてやれば和泉の目尻から涙が一筋頬を伝って落ちた。
「く、んん……っ!」
「入った、ぞ」
「……い、たい」
「わりい。でもとめらんねえわ」
「……じゃあ、ぎゅーってして」
「ちゅうもしとく?」
「……あとで、いっぱい、したい」
たった数時間前までは考えもつかなかった睦言を言い合いながら、額をこつりと合わせた。
両の手をしかりと握り締め、身体を密着させる。
するりと吉原の腰に回った和泉の足が甘えるように吉原の腰を締めた。
「もう、痛くねえの?」
「……わかんない」
「えーほら、どう? 気持ち良い? 痛い?」
吉原はそう言うやいなや軽く腰を前後に揺らした。
ひくんと震えた和泉の表情には苦痛の色も滲んではいたものの、快楽の方が大きいらしい。
鼻にかかった声が小さく漏れた。
「あ、気持ち良かった?」
「……ばか!」
「なんでーこうやっていちゃいちゃすんのも良いよなあ、まあ動くけど」
ゆっくりと慣らすように腰を揺らし始めた吉原。
入る前は和泉に飢えていたものの、いざ挿入を果たしてしまえば愛しみたいという思いが勝った。
快楽を追うためではなく、お互いを確かめるような行為。
和泉が手元に戻ったという実感。
ゆったりとした快楽に身を委ねた和泉を見て、吉原は小さく笑った。
これからは小さなことでもお互いに言葉を交わして、確かめていきたい。
もう離れることがないよう、手を繋いでいたい。
たゆたうような快楽に目を瞑り、和泉は吉原をきつく抱き締めた。
密着した肌から熱が伝わって、和泉を包み込む温度は安息のものでもある。
今なら素直になれるような気がした。
吉原に対して素直に言葉を紡げるような気がしたのだ。
和泉が小さく小さく言った言葉。
何度目かの好きを繰り返すと、吉原の頬が優しく緩む。
「す、き」
答えるように、吉原から与えられたのは羽を落とすような柔らかな口付け。
和泉の唇と重なると呼吸を交し合うようにひたりとくっついたのだ。
もう大丈夫。離れることはない。
吉原と和泉は前よりも強い絆で結ばれることを感じると、お互いを深く求めたのだった。